みやび)” の例文
あの美文詠嘆調のユニイクな話術であつたからつい/\「こぼれよね」などと下手にみやびめかして発音してしまつたのであらう。
下谷練塀小路 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
そして兵員の末に至るまで、自分たちの一挙一動を注視しているこの両側の群集のみやびやかさと気品とに気圧けおされたように、一語を発するものもないのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は、子供のとき利根の河原からこの山々の白い嶺をみやびやかに眺めて、まだ知らぬ越後国の雪の里人のありさまについて、いろいろ想像をめぐらしたものであった。
わが童心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
箱は、まさの細かい、桐の老木で作ったものであり、天国と書かれた書体も、墨色も、古くみやびていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此日このひくわいみやびなりしをおもして、詩を作らう、詩を作らう、和韻わゐんに人をおどろかしたいものともだへしが、一心いつしんつては不思議ふしぎ感応かんおうもあるものにて、近日きんじつ突然とつぜんとして一詩たり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ひろ園生そのふめに四季しきいろをたゝかはし、みやびやかなる居間ゐまめに起居きゝよ自由じゆうあり、かぜのきばの風鈴ふうりんつゆのしたゝる釣忍艸つりしのぶ、いづれをかしからぬもきを、なにをくるしんでか
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その高いこずえが夕日に染まるたび、きまってたくさんなからすが一しきりさわぎぬくのだった。ろうたけた人々がいかに潔癖けっぺきみやびやかを守っても、夜の野良犬と夕方の鴉と朝の牛のふんだけは除かれなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やつと彼は加減かげんした愼重さを以て振り向いた。私にはまるで一人のヴイジオンが彼の傍に立つてゐるやうに思はれた。彼から三歩のところに純白のよそほひをした一つの姿——若々しい、みやびやかな姿が立つてゐた。
しかし父のみやびの上にはすべて禅味が加わっていた事は確かでした。
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
なんというみやびやかさ! なんという気高さなのであろう! 男たちは老いも若きも、子供たちもみんなさっきの老人と少年のような長い上衣を緩やかに着け、素足にサンダルを穿いていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人目をげんずるあでやかさの上に、貴夫人のみやびやかさを装っている。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)