野猪のじし)” の例文
かやを刈って来て一尺おき位に畑の周りに立てるのをシデカジメ、あるいはシオリカジメといい、共に野猪のじしの害を防ぐ装置である。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
口から泡を吹いて、酔眼をビードロのように据えたまま、野猪のじしのように、艫からみよしへ、舳から艫へと、乱れ騒ぐ人間を掻きわけて飛び廻ります。
光一はお堂の前にでた。そこのさくらの下に千三が立っている。光一はかっとした。かれは野猪のじしのごとく突進した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、何やら黒いものの動くのを見て、また駈けてゆくと、それはを拾っていた野猪のじしだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらしい二、三軒が向いあいに、その新聞紙貼りの二階の壁までが露わに見通せたが、野猪のじしのような毛むくじゃらの男の幾人いくたりかの顔も、とあるひさしの下に何だか陽気そうに集っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
とかいう街の人気男の木戸口でわめく客呼びの声も、私たちにはなつかしい思い出の一つになっているが、この界隈かいわいには飲み屋、蕎麦そば屋、天ぷら屋、軍鶏しゃも料理屋、蒲焼かばやき、お汁粉しるこ、焼芋、すし、野猪のじし
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その犬舎いぬごやには、四十頭からの猛犬が飼ってあって、口元の不気味な巨犬マータンや、ヴァンデイ産の毛のもじゃもじゃした粗毛猟犬グリフォンなど、いずれも猟にれてゆくと、獰猛な勢いで野猪のじしに喰いつく奴等である。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
口から泡を吹いて、醉眼すゐがんをビードロのやうにゑたまゝ、野猪のじしのやうに、ともからみよしへ、舳から艫へと、亂れ騷ぐ人間を掻きわけて飛び廻ります。
今日では石油を襤褸ぼろに浸していぶすものであるが、以前は竹の串に髪の毛を少しわがねてはさみ、その片端を焦がしたもの、あるいは野猪のじし生皮なまかわを一寸角ばかりに切って
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
野猪のじしの子でも兎でもむささびでも愛すことが出来たが、狐だけは憎かった、また、こわかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眠りをさました野猪のじしが、山萩の一叢ひとむらに、風を起したほどにも足りないことだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、野猪のじしのような勢いで陰湿いんしつな奥の一トへ躍り込んだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やがて、野猪のじしのように、って来ようぞ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)