野槌のづち)” の例文
前項にいった、わが邦中国のトウビョウ蛇神が、体短く中太いというについて、必ず聯想さるるは、野槌のづちという蛇である。
いや、そうじゃない——とまたそれに反説をかつぐ者もあって、狐だろう、狸の仕業しわざだろう、否、野槌のづちという河獺かわうそのような小動物の妖気にちがいないなどと、知ったか振りをするのもある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの、円肌まるはだで、いびつづくった、尾も頭も短う太い、むくりむくり、ぶくぶくと横にのたくりまして、毒気どくきは人を殺すと申す、可恐おそろしく、気味の悪い、野槌のづちという蛇そのままの形に見えました。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土伝に昔ノーヅツ(上述野槌のづちか)ここに棲みたけ五、六尺太さ面桶めんつうほどで、頭と体と直角を成して槌のごとく、急に落ち下りて人々をんだといい今も恐れて入らず
野槌は最初神の名で、諾冉二尊が日神より前に生むところ、『古事記』に、野神名鹿屋野比売かやぬひめ、またの名野椎ぬつちの神という。『日本紀』に、草祖草野姫くさおやかやぬひめまたの名野槌のづちと見えて草野の神だ。