輿論よろん)” の例文
権力と輿論よろんとは智的生活の所産である。権威と独創とは本能的生活の所産である。そして現世では、いつでも前者が後者を圧倒する。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
産業上の諸階級間の不平、政党各派の紛擾ふんじょう輿論よろんの神経過敏、経済上の諸調査の専心に行なわれつつあること等はすなわちそれである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
わが家の庭に立てる位の事なら差支えないがその男の遣方やりかたはそれとなく生徒の父兄を説いて金を出させ地方の新聞記者を籠絡ろうらくして輿論よろん
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その上新聞雑誌の輿論よろんも、蟹に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。蟹の猿を殺したのは私憤しふんの結果にほかならない。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かくのごとく積極論派は外政上において失敗したりといえども、内政上には大捷たいしょうを博し、王政再興論はついに全国の輿論よろんとなるに至れり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
しかもあえてこのような文章を書くのは、老大家やその亜流の作品を罵倒する目的ではなく、むしろ、それらの作品を取り巻く文壇の輿論よろん
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さうして二十八の女には、七十に近いあの隠居よりは、二十四五の若者の方が、よく釣合ふべきはずだつたといふのが、村の輿論よろんであつた。
サンフランシスコにある、天主教及び新教の教会や、宗教学校や、その他のよい機関は、輿論よろんを動かすことは全然出来ぬらしい。
更に、そういう事実を目前にしながら、日本の輿論よろんが、こういう問題にほとんど無関心の状態であることもまた不思議である。
社会のこういう輿論よろんと民衆の激昂とを反映している裁判が、私にゆるやかな刑罰なぞを加えようということは到底考えられぬことであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
これは湯槽の中の輿論よろんのようで、この地では誰ひとりとして、白骨にお化けが出るということを信じないものはないようです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これこそ、我々が待っていた天の声である。地上の輿論よろんである。太守、何を迷うことがありましょう。よろしく曹操と力をあわすべきときです」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる輿論よろんなるものは実に軽薄なものである。また我々の友人中にも甲が乙のうわさをして、はなはだしからぬやつだとののしる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いわんや群衆の間に自分を王として擁立しようなどという輿論よろんが起これば、ヘロデはいっそう自分を敵視するに違いない。
それは、時の出淵駐米大使からの報告に基いて、米国の輿論よろんに気兼ねをし、既定の方針の敢行をためらったのであった。
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
世間に周知せしめる程明瞭に、当局の手によって発表せられるかどうかを慮って、ここ輿論よろんを喚起する目的の為に、この一文を寄せる次第である。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
海舟は彼にすがる旗本たちの浅薄な輿論よろんに巻きこまれたりかつぎ上げられたりしなかった。彼には人に担ぎ上げられるような不安定さがミジンもない。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
当時上海租界の「輿論よろん」が大体この辺だったと見ればよい。人でなしの三人に向って、思いきり唾を吐きかけてやる。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「それが輿論よろんか……」原氏は髯のない口元をへし曲げるやうにして、皮肉な笑ひを見せた。「輿論なら仕方がない、それぢや買はない事にしよう。」
ソコでその私のかんがえから割出わりだして、この徳川政府を見るとほとんど取所とりどころのない有様で、当時日本国中の輿論よろんすべて攘夷で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
特別に手を延して米国の輿論よろん——政治家や新聞やの意見——を動かすように運動をしなければならなかったのです。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
村中の輿論よろんを悪く刺戟する結果、大隅のこの事件探索はもちろんのこと、この村に滞在することも許されなくなるので、それはなるべく避けたかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この趨勢すうせいが世界を支配している故、敢えて「民藝」の声を強めるのである。もしこの輿論よろんが起らなかったら、工藝はその正しい歴史を閉じるであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それと事がらは別だが、いわゆる輿論よろんとか衆議の結果というようなものが実際に多数の意見を代表するかどうか疑わしい場合がはなはだ多いように思う。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これ社会に擾乱じょうらんの避くべからざる所以である。宜湾朝保はこの間に立って時勢を解釈し、輿論よろんを無視して沖縄を今日のような位地に置いたのでございます。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
また、今日ありては国家の大事のごときは、これを国会にたずね、輿論よろんに問うて決する道あれば、易筮によりて天に聴くの必要のなきことは明らかである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
宗教や道徳に訴えたり、文芸を利用したり、輿論よろんを形成または統制したり、宣伝をしたり、教育を通じたりして誘導、教化、勧奨、指導を与えることである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
ただこの人中にも一人や二人はいるかも知れぬという程度に、輿論よろんが彼らを尋常視していたことはうかがわれる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかりといえども一世の輿論よろんと戦い、天下の趨勢に抗し、愚人と争い、智者と闘い、社会を挙げて、その敵たるも顧慮する所なく、猛然として驀進ばくしんしたるもの
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
天下の富豪大倉喜八郎氏が百何十万円とかを投じて賀筵がえんを張る。そのために支那から俳優を招くという事が一般に伝わると、真剣な意味で非常な輿論よろん捲起まきおこした。
怨恨えんこんまたは感謝の念を知らず、平然として下級者に対し上長の権を振るい、議会の大多数を操縦して王位の下にひそかにつぶやいてる輿論よろんを圧迫させるに巧みだった。
これが門弟らの輿論よろんであった。左内も決して悪い人ではなかったが、誰に対しても厳格であった。殊に門弟らに対しては厳格を通り越して厳酷ともいうべき程であった。
輿論よろんにおいてひとが誤解され易いのには実に驚く。私はかつて民衆に対してどのやうな罪を犯したおぼえもない。然るに今ではすつかり民衆の味方でないと云はれてゐる。
ゲーテに於ける自然と歴史 (新字旧仮名) / 三木清(著)
もっとも我々の社会においては、同一の問題についても各種の意見が色々行われて居るもので、何が多数の輿論よろんなりやは容易にこれを決することは出来ないものである。
「うん。こうして輿論よろんを喚起しておいてね。そうして、先生が大学へはいれる下地したじを作る……」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはあなたのために輿論よろんを無視して、あなたの名誉を回復してあげたのだから、もちろん、大いばりでその報酬を当てにしても、いや更にあなたの感謝を要求しても
千浬以内にいる彼を救う為に、数万浬彼方の国の輿論よろんを動かさねばならぬなんて、妙な話だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
俺は、世界の輿論よろんに訴えてもパタゴニア人を救うと、三上は単身パタゴニアにおもむいたのだ。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「私はつて民衆に対してどんな罪を犯したろうか。けれども、いまでは、すっかり民衆の友でないと言われている。輿論よろんいて人の誤解されやすいのには驚く。実に驚く。」
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それを行うには、わしの考えていることを、日本中が、一致して行ってくれることで、わしは、わしの意見が、天下の輿論よろんとなれば、それでいいと思うている。実行とは別じゃ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
いはく松島自身の披露、曰く軍人社会の輿論よろんしかして之を言ふものは、現に陸軍中尉の妻女
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
瘠我慢やせがまん一篇の精神せいしんもっぱらここにうたがいを存しあえてこれを後世の輿論よろんたださんとしたるものにして、この一点については論者輩ろんしゃはいがいかに千言万語せんげんばんごかさぬるも到底とうてい弁護べんごこうはなかるべし。
上陸せんまでも、泊って居るよりは動いて居る方が善いというのは船中の輿論よろんである。船は日の暮に出帆した。非常にのろい速力でゆっくりと行たので翌日の午後にようやく和田の岬へ著いた。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
その声はしだいに広がり、強く激しい輿論よろんをもりあげ、人の集まるところでは、必ずこの大問題が論じられた。釣舟宿「千本」の下座敷で、或る夜この件について、大勢の者がやりあった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かくてこの事件も無事に治ったが、さて治らぬのは輿論よろんの沸騰である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
市民識者の輿論よろんが実情を指摘して居るところであります、なるほど豊島氏はえらい方であると敬服して居ります、しかしながら、豊島氏の率いる、というより豊島氏をいただく民政党というものが
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ロシアがかつて農奴解放の輿論よろんが喧しくなったとき、その成就が
輿論よろんを尊重する一新聞は、例の如くルパン攻撃ののろしを挙げた。
ほぼ輿論よろんはきまったのであります。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
第百九回 輿論よろん
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)