)” の例文
その前にバナナや桜実さくらんぼうづたかく盛つた果物屋の車が其れをかせて来た頸に綱を附けた三匹の犬と一人の老婆とにつて店を出して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
而して會〻たま/\その街を過ぐる一行ありしがために、此一寰區くわんくは特に明かなる印象を我心裡に留むることを得たり。角きはめて長き二頭の白牛一車をけり。
指の先まで皺のよったあわれなようすをした白髪頭の老人で、庭木の苗木をすこしばかり積んだ馬車をいてきて、いつもここで午食ひるをつかっている。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
成程お前さんは、勝利の車を、あの、女の世話をする人の中で、一番貴族的な公爵にかせてゐる。それからあの多情多恨の藝術家たる青年に輓かせてゐる。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
三十五年の二月の或日、この救済会の潮田千勢子と云ふ老女が食物衣服など車にかせて、鉱毒地の見舞に出掛けた。僕も一緒に行つた。潮田さんは六十であつたらう。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
伊波さんの此本は、かうした組踊りの衰運をき戻さう、といふ情熱から書かれたものである。
組踊り以前 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
なんといふ一しやうだらう。こうして荷馬車にばしゃあさからばんまでくために、わたしおやわたしをうんだのでもなからうに。自分じぶんがこんなつてゐるのをみたら、人間にんげんならなんとふだらう
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
河は濁ってふとっていた。橋の上を駄馬が車をいて通っていった。生徒の小さ番傘ばんがさが遠くまで並んでいた。灸は弁当を下げたかった。早くオルガンを聴きながら唱歌を唄ってみたかった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たまたま犬の一枚革いちまいがわを背に引かけて車をき、或いは越後えちごからくる薬売の娘のごとく、腰裳こしもを高くかかげて都大路みやこおおじ闊歩かっぽする者があっても、是を前後左右から打眺めて、讃歎する者の無いかぎりは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「年寄りの乞食に、チンバの車き、だが子供は可愛いね」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我心は何故とも知る由なけれど、唯だ推されかるゝ如くなりき。われは埠頭ふとうにおり立ちて、行李をはこび來らしめ、目を放ちて海原を望み見たり。さらば/\我故郷。
さういふ時は草の上や、又は数奇すきを凝した休憩所で辨当を食べて帰る。帰り道に馬車をゆるゆるかせて通ると、道の両側から、鳩の群に取り巻かれた、牧場まきば帰りの男や女が礼をするのである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
少年の群はながえにすがりて馬をはづしたり。こは自ら車をかんとてなりき。アヌンチヤタは聲をふるはせてこれを制せんとしつれど、その聲は萬人のその名を呼べるに打ち消されぬ。