誰方どなた)” の例文
(こゝまでお読みの皆さんは誰方どなたもさうお思ひになるでせう、私もさう思ひます、心の底から、艶子に同情せずには居られません。)
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
貴女あなた、貴女、誰方どなたにしましても、何事にしましても、危い、それは危い。怪我をします。怪我をします。気をおつけなさらないと。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が新銭座に一寸ちょいと住居すまいの時(新銭座塾にあらず)、誰方どなたか知らないが御目に掛りたいといっておさむらいが参りましたと下女が取次とりつぎするから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、今月に入ると、誰方どなたも滅多におへやから出ないようになり、ことにダンネベルグ様の御様子は、ほとんど狂的としか思われません。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
淑女みなさん、」彼は、自分の家族の方を向いて、さう云つた。「並びにテムプル先生、諸先生、子供たち、誰方どなたもこの子供を御覽でせうな?」
其麽そんな誰方どなたから習つて? ホホヽヽ、マア何といふ呆然ぼんやりした顔! お顔を洗つて被来いらつしやいな。』と言ひ乍ら、遠慮なく座つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
誰方どなた様かは存じませんが、手前は盲人でござるゆえ、誰方が側にいらっしゃるか心得ません、不調法が有ったら御勘弁下すっても宜しい訳
ほんに、ほんに、人様に耻を掻かせるどころではない、昔を思えば、愚僧こそ誰方どなたさまよりも耻かしい人間でござります。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
出入を一々誰何すゐかする。俺は何の気なしに車を下りて式台の石段をのぼつた。警部がつかつかやつて来て、「誰方どなたです」と問うた。流石さすがに敬語を使つた。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「旦那様それはほんとうのお話でございましょうか? もしや誰方どなたか外の方のお墓にでもお詣りにいらしていたお方ではございませんでしょうか?」
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「このあたりのところですから、さあ誰方どなたも変りあってスクリーンを覗いて下さい」理学士が器械から離れながら云った。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし……誰方どなた様やら存じませぬが、世間の衆とまじわりもって、礼儀もわきまえぬわがままな山家者やまがものの子でござります。どうぞ、おゆるしくだされませ
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それでも東京には誰方どなたか待っている人がいるんじゃないんですか。順さんがしっかり稼いで帰ってくるのを。」
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
あの辺でおきき下さいませば、もう誰方どなたでも御存じでございます。滝庄たきしょうという親分が、以前私の父の兄で、顔を
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
中身は赤飯だといっても、留守中は誰方どなた様からの贈り物があっても、うけられませぬと、女中さん(例の別嬪の)が気の毒そうに言い訳しながら、つき戻した。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
人のお世辞も、軽蔑視も、何もかも手にとるように分かっていて、誰方どなたがみえても楽しくはありません。
「結構な出来だ、誰方どなたでせうな。」と独語ひとりごとのやうに言つてゐたが、暫くするとちよつと舌打をした。「一字も読めない、恐ろしく達者に書き上げたものですな。」
まだ考えが足らず誰方どなたにもやれそうな仕事で、今見れば銅賞にも及ばぬものかとも思われます。
「天晴れ見事なる装い、味方の落ちゆく中を唯一人、残られたは、一体誰方どなたか、名乗らせ給え」
私は戸を閉めて暫時しばらく庭に立っていますと、外からコトコトと戸を叩く音がする。下駄の雪を落す音が聞える。一旦閉めた戸をた開けて、「誰方どなた」と声を掛けて見ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
でも、私あの方と青木さんとが、こうした物を、お取りかわしになっていようとは、夢にも思いませんでしたわ。屹度きっと誰方どなたにも秘密にしていらしったのでございましょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それで、こちらも丁寧に向き直って、さて、「あなたは誰方どなたですか。」とやったものだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「ヘイ圓朝、年忘れのお見舞いにうかがいました。誰方どなたも佳い年をお取り下さいやし」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
へゝえ、誰方どなたですか、もう直ぐこれへ歸つておいでになりますで、……實はあなたを
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ジロジロと私の風体ふうていを視廻して、膝を突いて、母の顔を見ながら、「誰方どなた?」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
線香も絶え、軒先の蚊ばしらにまたいきほひもついて来たので、蚊帳かやのなかに入らうとしてゐると、不意に玄関の戸がそつと開くのだ。ばあやは風呂へ入つてゐる。「誰方どなたですか」と声をかけて見た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「旦那様、誰方どなたか、一寸、手をかして頂けませんで、ござりましょうか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「いえ、ピカ一さんの純情は誰方どなたにもまして私が認めておりますのよ」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「あれは誰方どなたですね」と、マトヴェイ・サヴィチがきいた。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「と、云って、あなたさまは、誰方どなたでございますか」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「はい、はい。誰方どなたでございます」
「そんだら、誰方どなたも。」と言う。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
誰方どなたもお変りありませんか。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「え。あなた誰方どなたです」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
誰方どなただい」
誰方どなた
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「アデェル」と私はたづねた。「あなたがお話しになつた、その綺麗な氣持ちのいゝ町にゐらした時は、誰方どなたと御一緒でしたの?」
「ちつとも此邊このへんぢやあ見掛みかけないですからね、だつて、さう遠方ゑんぱうからるわけはなしさ、誰方どなた御存ごぞんじぢやありませんか。」
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや斯く云ふ私なども敗惨の憂目を覚ゆる点では誰方どなたにも劣らぬ嘆きの沼の主ではありますが、事態此処に至つたからには
女に臆病な男 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
しの「はい、誰方どなたかハア知んねえが、お這入んなせえましよ、お嬢さまのお詫ならんな人でもゆるさねえばなんねえから、まア這入んなせえましよ」
「では申そう」と憎々しいまでに勿体もったいをつけて「——実は、各々方は誰方どなたも此拠に足をとめて行かぬこととなさるのでござる。そしてこの興味ある討伐を ...
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その代り、必ず/\誰方どなたにも仰しゃってはなりませんよ。ようございますか。それさえ守って下さいましたら、今夜わたくしがよい所へ御案内いたします
お屋敷の旦那方にゃあ、始終、御贔屓ごひいきにあずかっていたんで、未だに誰方どなたのことも時々思い出しているんで。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「是非会わなければならないと言って、そとで誰方どなたか待っていらっしゃいます。おやすみになっていらっしゃいますと言っても、是非会わなければならないって——。」
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そりゃ誰方どなただってもそう言いますサ。よくよく考えた上でなければこんなことは書けないッて。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あの時は、まだ誰方どなたもお元気で、ふえ琵琶びわなど持ち出して、興じたものでございました」
誰方どなたにでございましょうか。誰方に返して呉れと云われたのでございましょうか。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「押しかけますぜ。ないしょごとはすぐ暴露れまさあね。お連れさんは誰方どなたですい。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「い、いいえ、この一月ばかりは誰方どなたも……」とその老人は、眼をみはってどもったが、検事を満足させるような回答を与えなかった。それに法水は、押しつけるような無気味な声音で追求した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「……御尤ごもっとものお言葉で……その狆は誰方どなたがお持ちなんですか」