蔦葛つたかづら)” の例文
昼か、よるか、それもおれにはわからない。唯、どこかで蒼鷺あをさぎの啼く声がしたと思つたら、蔦葛つたかづらおほはれた木々のこずゑに、薄明りのほのめく空が見えた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水車みづぐるま川向かはむかふにあつてそのふるめかしいところ木立こだちしげみになかおほはれて案排あんばい蔦葛つたかづらまとふて具合ぐあひ少年心こどもごころにも面白おもしろ畫題ぐわだい心得こゝろえたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
凹んだ疊の上を爪立つて歩かねばならぬ程の狐狸こりの棲家にもたとへたい荒屋あばらやで、蔦葛つたかづらに蔽はれた高い石垣を正面に控へ、屋後は帶のやうな長屋の屋根がうね/\とつらなつてゐた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
云へ御殿場迄ごてんばまで旦那殿だんなどの讓合ゆづりあう中何時か我家のおもてへ來りしが日は西山へ入て薄暗うすくらければ外より是お里遠州ゑんしうの兄が來たと云にお里はあいと云出る此家のかまへ昔は然るべき百姓とも云るれど今はかべおちほねあらはかや軒端のきばかたむきてはしらから蔦葛つたかづら糸瓜へちまの花のみだ住荒すみあらしたるしづが家に娘のお里は十七歳縹致きりやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おれはこの五六日、その不思議な世界にあこがれて、蔦葛つたかづらに掩はれた木々のあひだを、夢現ゆめうつつのやうに歩いてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
寒い朝日の光と一しよに、水のにほひあしの匀ひがおれの体を包んだ事もある。と思ふと又枝蛙えだかはづの声が、蔦葛つたかづらおほはれた木々の梢から、一つ一つかすかな星を呼びさました覚えもあつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)