荻窪おぎくぼ)” の例文
汽車に乗せたらとって、荻窪おぎくぼから汽車で吉祥寺きちじょうじに送って、林の中につないで置いたら、くびに縄きれをぶらさげながら、一週間ぶりにもどった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ところが、二週間ほどたった、ある夜のこと、荻窪おぎくぼ高橋太一郎たかはしたいちろうさんのおうちに、おそろしいことがおこったのです。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
又その前は、甲州御坂峠みさかとうげの頂上の、茶店の二階を借りて住んでいたのである。更にその前は、荻窪おぎくぼの最下等の下宿屋の一室を借りて住んでいたのである。
無趣味 (新字新仮名) / 太宰治(著)
荻窪おぎくぼの知人の世話で借れる約束になっていた部屋を、ある日、彼が確かめに行くと、話は全くいちがっていた。茫然ぼうぜんとして夕ぐれのみちを歩いていると、ふと、その知人と出逢であった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
わたしの知る限りでも、東京で雷雨の多いのは北多摩たま郡の武蔵野町から杉並区の荻窪おぎくぼ阿佐ヶ谷あさがやのあたりであるらしい。甲信こうしん盆地で発生した雷雲が武蔵野の空を通過して、房総ぼうそうの沖へ流れ去る。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昭和七年二月十三日 荻窪おぎくぼ、女子大学句会。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
咽喉のどが悪いとて療治をして居ると云うが如何だろう、と好奇心も手伝うて、午後独歩どっぽ荻窪おぎくぼ停車場すてえしょんさして出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
神谷は先方に気づかれぬよう、半丁も手前で自動車を降りて、運転手にここはどこだと尋ねると、なんでも荻窪おぎくぼ吉祥寺きちじょうじの中ほどらしいとの答えであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吉祥寺、西荻窪おぎくぼ、……おそい、実にのろい。電車の窓のひび割れたガラスの、そのひびの波状の線のとおりに指先をたどらせ、でさすって思わず、悲しい重い溜息ためいきをもらした。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宮瀬君のおうちは、東京の西北のはずれにあたる荻窪おぎくぼの、さびしい丘の上に立っていました。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東京郊外、省線荻窪おぎくぼ駅の北口に下車すると、そこから二十分くらいで、あのひとの大戦後の新しいお住居すまいに行き着けるらしいという事は、直治から前にそれとなく聞いていたのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
白の主人は夏の朝早く起きて、赤沢君を送りかた/″\、白を荻窪おぎくぼ停車場ていしゃばまでいて往った。千歳村ちとせむらに越した年の春もろうて来て、この八月まで、約一年半白は主人夫妻と共に居たのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たしか、その頃のことと記憶しているが、井伏さんが銀座からの帰りに荻窪おぎくぼのおでんやに立寄り、お酒を呑んで、それから、すっと外へ出て、いきなり声を挙げて泣かれたことがあった。
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「中央線の沿線で、荻窪おぎくぼの少し向こうです」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東京の荻窪おぎくぼあたりのヤキトリ屋台が、胸の焼きげるほど懐しく思い出され、なんにも要らない、あんな屋台で一串二銭のヤキトリと一杯十銭のウィスケというものを前にして思うさま
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
荻窪おぎくぼまで、どれほどかかる?」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
意地の悪そうな、下品な女中に案内されて二階に上り、部屋に通されて見ると、私は、いい年をして、泣きそうな気がした。三年まえに、私が借りていた荻窪おぎくぼの下宿屋の一室を思い出した。