荷拵にごしら)” の例文
「なるほど、あれも奉公人の一人だ。——庭掃きから荷拵にごしらえ、使い走りなど、外廻りの仕事をしている、島吉というのがおります」
「それがいいよ。わたしもそう思ってね。荷拵にごしらえをした時、嵩張物は持運びに不便だから半分ばかり売ってみたがなかなかおあしにならないよ」
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
角谷は手が器用きようで、書籍の箱造り荷拵にごしらえなどがうまかった。職人になればよかった、と自身もしばしばこぼして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
車を手舁てかきで床の正面へ据えて、すぐに荷拵にごしらえをして、その宰領をしながら、東京へ帰ろう手筈てはずだったそうですわ。
本間さんはとうとう思い切って、雨が降るのに荷拵にごしらえが出来ると、俵屋たわらやの玄関からくるまを駆って、制服制帽の甲斐甲斐しい姿を、七条の停車場へ運ばせる事にした。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを胴巻に入れたり、襦袢じゅばんの襟に縫附けたり、種々いろ/\に致して旅の用意を致します、其の内に荷拵にごしらえが出来ると、これを作右衞門の蔵へ運んで預けると云う訳で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして森家の台所は恰度ちょうど、息子を学童疎開に出して一人きりになっている康子にゆだねる、——そういうことが決定すると、高子も晴れがましく家に戻って来て、移転の荷拵にごしらえをした。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
荷拵にごしらえをさせては堅実無比であり、駕籠かごの肩を担いでは、お関所の門限を融通するの頓智もある。雲助唄を歌わせれば、見かけによらず、行く雲を止めるの妙音を発する者さえある。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なにをいってらッしゃるの。蝉なんか、二十日も前からいていますわ。いったい、東京とうけいへ送り出す父の誕生祝いの品々は、荷拵にごしらえばかりなすっておいて、どうなさるおつもり?」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわてて荷拵にごしらえをするやら、シュトルツ夫人の所へそのむねを知らせに行くやらした。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その二十分前の四時になっても、私たちはまだ荷拵にごしらえが出来ずにいる。
朝は川の端には氷が張って居るからその氷を叩き割って水を汲んで来てそうして残って居る火に暖めて居る中に自分の荷拵にごしらえに掛る。まず自分の着物の着方のぞんざいになって居るのを直します。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
げたるは如何にも金飛脚と見えけるゆゑあとより見えかくれに附け行て見屆みとゞけたるに瀬戸物町十七屋孫兵衞と云ふ飛脚屋ひきやくや這入はひりけるが今日が立日たちびにて店先みせさきに手代共居双ゐならび帳面など認めし此方こなたには大勢の若い者荷拵にごしらへを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
中々きかん気のおやじで、鉄砲の筒口すぐちを押し握ってそっと破れ障子を開けると、此方こちらはこそ/\荷拵にごしらえを致して居るところへ這入って来ましたから、さとられまいと荷を脇へ片付けながら
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがて、京都の山科やましなとかへ移るつもりで、荷拵にごしらえまでしているが、先月頃から、左の腕にちょうんで大熱を発したらしく、まだ、赤穂の城下から少し離れた尾崎村の八助の家で療治しておる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人とも這々ほう/\ていにて荷拵にごしらえをなし、暇乞いとまごいもそこ/\に越後屋方を逃出しましたが、宇都宮明神の後道うしろみちにかゝりますと、昼さえ暗き八幡山、まして真夜中の事でございますから