自個じぶん)” の例文
王宙は伯父のへやを出て庭におり、自個じぶんの住居へ帰るつもりで植込うえこみ竹群たけむらかげを歩いていた。夕月がさして竹の葉がかすかな風に動いていた。
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
皆ちょっとの間季和の方へ注意を向けたが、すぐ忘れてしまったように隣同士で話をはじめる者もあれば、自個じぶん陶酔とうすいの世界に帰って往く者もあった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宙は女と離れてその前にある小門こもんの口の方へ歩いて往った。宙はその時女の足が一足二足自個じぶんを追って来たように感じた。
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
夢現ゆめうつつの境にいた章の眼は覚めてしまった。青い衣服きものを着た小柄な女が、自個じぶんに片手を掴まれて傍にたおれていた。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「これは自個じぶんの本意でなくて、親戚の張閑雲から強いて言われたから、しかたなくやろうとした事だ、どうか怒りをやめてくれ、我には決して二心がない」
碧玉の環飾 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小さい時からこう州へ呼び寄せられて倩娘せいじょうといっしょに育てられ、二人の間は許嫁いいなずけ同様の待遇で、他人に向っておりおり口外する伯父のことばを聞いても、倩娘は自個じぶんのものと思うようになり
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
崔も馬からおりてげなんといっしょにそれぞれ自個じぶんの乗っていた馬を傍の花の木に繋いだ。林のはずれに立っていた婢が若い二三人の婢といっしょに引返してきた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
邪神は自個じぶんの前へ元振をんだ。元振は考えついたことがあった。元振は邪神に向って言った。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
退けている人じゃないか、自個じぶんより議論が偉いといって、妖怪あつかいにするは怪しからん、しかし真箇ほんとうに怪しいものなら、猟犬をれてきて、けしかけたらいいじゃないか
狐と狸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少年は自個じぶん一人の力ではどうにもならないので、父親に話して、父親から頼んでもらおうと思った。走ってすぐ近くにある自個の家へ帰り、父親の姿を見るなりあわただしく言った。
北斗と南斗星 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに自個じぶんのとってこない鳥獣の肉がたくさんあることがあるので、ついすると、二人で猟にでも往くのではないかと思ったが、べつに弓矢らしい物を構えているようにも思われなかった。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主婦はちょっと腰を浮かして、自個じぶんの前の牀へ指をさした。
黄金の枕 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老嫗は起って昇降口の扉を開けてまず自個じぶんで降りた。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お嬢さんも、自個じぶんでおあがりなさいまし」
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)