腺病質せんびょうしつ)” の例文
門内にはいると、なるほど、境内けいだいにも、墓地にも、紫陽花の樹が多い。腺病質せんびょうしつあいいろの花が、月の朝みたいに咲いている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十四五と云うことであったが、外見も先ずそのくらいで、せた、小柄な、腺病質せんびょうしつらしい血色をした紳士である。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
千駄木せんだぎ時代に、よくターナーの水彩など見せられたころ、ロゼチの描く腺病質せんびょうしつの美女の絵も示された記憶がある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
腺病質せんびょうしつな少年の常として、何かといへば扁桃腺が、唾を呑みこむにも差支へるほど、腫れあがるのである。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
僕は五十二のマズルカを作った腺病質せんびょうしつなピアニストにおいて独創性の新鮮な味覚を理解する。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
かみはまだおろさないで、金襴きんらん染絹そめぎぬの衣、腺病質せんびょうしつのたちと見え、き通るばかり青白いはだに、切りみ過ぎたかのようなはっきりした眼鼻立めはなだち、男性的なするどい美しさを持つ青年でした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私達は、屋島やしまの戦いに敗れた平家の話や、腺病質せんびょうしつの弱々しい少女が荒い世の波風にもまれている話を聞くとき、その哀れな一種の美しさにうたれます。——それが衰滅の美というのでしょう。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
このレベジャートニコフはどこかの勤め人だが、腺病質せんびょうしつのるいれきもちで、不思議なくらい亜麻色の毛をした、背の低い小柄な男で、カツレツのような頬ひげを立て、それを自慢にしていた。
笹村は腺病質せんびょうしつの細いその頚筋くびすじを気にした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
トコロガ彼女ハ(コンナヿヲ露骨ニ書イタリ話シタリスルヿヲ彼女ハ最モムノデアル)腺病質せんびょうしつデシカモ心臓ガ弱イニモカカワラズ、アノ方ハ病的ニ強イ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一つには、頗る臆病で腺病質せんびょうしつな少年を、なんとかして鍛へ直さうといふ下心があつたのかも知れない。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
次には、生来、腺病質せんびょうしつでかぼそい体の弟が、旅先で、金もなく、落着くあてもなく、これも定めてもだえているだろう容子ようすが眼に見える心地がする。病のほども、案じられる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腺病質せんびょうしつのこどもだつた時分に、かういふ夜はよく乳母うばが寝間着の上に天鵞絨ビロードのマントを羽織はおらせて木の茂みの多い近所の邸町やしきまちの細道を連れて歩いてれた。天地の静寂は水のやうに少女を冷やした。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
腺病質せんびょうしつという体つきである。せぎすで、色白く、耳は美しいばかり紅い。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
体も、丈夫ではない、腺病質せんびょうしつの方である。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)