脳裡あたま)” の例文
旧字:腦裡
善とか悪とか云ふ事も全く脳裡あたまから消えて了つて、渠はそれからそれと静かに考へを廻らして居たが、第一に多少の思慮を費したのは
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おそらくはふと、良人おっと楊雄の脳裡あたまには、そのとき、他人の覗きえない幻影が彼女の姿態に重なって見えていたのではあるまいか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々じつと、長いあひだひとつ場所ところに坐つてゐると、いかにも何もかもが初めから脳裡あたまに浮かびあがつて来さうな気がするのぢや……が、やはりまたぼうつとしてしまふのぢや。
いいえ、直ぐに逃げ出したのでございました。けれども淀君の声が脳裡あたまに深く沁み込んで翌朝から発熱致しました。医者は何かにおびえたのらしいと申す丈けで治療の方針が立ちません。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とっさに、これだけのきょう一日の追憶が、源三郎の脳裡あたまを走ったのでした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何時いつ脳裡あたまの隅にうずいていた家族に対する不安が大きくのしかかって来るような気がして、厳封げんぷううえ公用と書いた重い荷物をしっかり抱え直すと、避難民の群を追うように、足早に歩き出した。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
私の脳裡あたまにこんな考が浮んだ、「この子を殺したら?」
狂人日記 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)