背丈せい)” の例文
彼の背丈せいを埋めそうに麦が伸びて、青い穂が針のようにちかちかと光っていた。菜の花が放つ生温い香気が、彼をせ返らせそうにした。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
彼の風采は、割合に背丈せいが高いというぐらいのことで、普通の人間の眼には別にどこといって変わったところは見えなかった。
背丈せいの高い、痩せた男で、亡き人の親戚であるという侍従職がそばに立っている英国人の耳もとで「あの青年士官は伯爵夫人の私生児しせいじですよ」
「お光さん、トム公ってな、子供でしょう。まだこんなッこい」と煮方の松どんが、煮を待ちながら背丈せいの寸法を示して
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう、そう——だけど、あのひとのほうが髪の毛が黒いし、背丈せいもたかいし、それに立派な旦那のようななりを
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
背丈せいはさして高くなく、肉付も普通で所謂中肉中背丈ぜいだが、色飽まで黒く、それに一際目立つクッキリとした太い眉、眼は大きくギロリ/\と動く物凄さ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
あんなに高い処に在る電球のスイッチを、楽々と手を伸してねじって行った、その素晴しい背丈せいの高さ……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
風に折れなかったらもうちと背丈せいがのびて、花も沢山咲くでせうに……と奥様が仰っていらっしゃいました。お庭が広いので春彦さんは毎朝虫とりをなさいます。
手紙 (新字旧仮名) / 知里幸恵(著)
日本と違って向うのものがあんまり君より背丈せいが高過ぎるもんだから、苦しまぎれにいっしょに行った下宿の亭主に頼んで、肩車に乗せて貰ったって云うじゃないか
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銅像を下からのぞいた時のように妙に背丈せいの高さの判別がつかなかったり……、時々指環をめた手が、腿の辺まで下りて来て、ぼそぼそと泡を立て乍ら掻いたり……。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
六尺近い背丈せいを少し前こごみにして、営養の悪い土気色つちけいろの顔が真直に肩の上に乗っていた。当惑した野獣のようで、同時に何所どこ奸譎わるがしこい大きな眼が太い眉の下でぎろぎろと光っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一座の道化役どうけやくに、一人の小人がいた。三十歳の癖に七八歳の少年の背丈せいで、顔ばかりが、本当の年よりもふけて見える様な、無気味な片輪者で、そんな男にあり勝ちの低能者であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
粗末な服を着た、六十ぐらいの、ひげの生えた背丈せいの高い男であった。
田舍には稀な程晩婚であつた所爲せゐでもあらうか、私には兄も姉も、妹もなく唯一粒種、剛い言葉一つも懸けるられずに育つた爲めか、背丈せいだけは普通であつたけれども、ひよろ/\と痩せ細つてゐて
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いきいきとした少女たちのひとみ、みな、なつめのようにクルッとみはって——そしてまだ心配そうに、中央に立ついちばん背丈せいの高い人を見あげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中の一つには、人間ひと背丈せいの三倍もあるやうな高さの綿花わたの木が見渡す限りはてしもなく繁つてゐる図があつた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
要するに君はせてたけが長く生れた男で、僕は肥えてずんぐり育った人間なんだ。僕の真似をしてふとろうと思うなら、君は君の背丈せいちぢめるよりほかにみちはないんだろう
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はいくら考えまいとしても、今ごろはもう溺死して、二、三マイルもあとの方で長い波のうねりに揺られている、あの背丈せいの高い男のことが考え出されてならなかった。
背丈せいが五尺と一寸そこらで。年の頃なら三十五六の。それが頭がクルクル坊主じゃ。眼玉落ち込み歯は総入歯で。せた肋骨あばらが洗濯板なる。着ている布子ぬのこが畑の案山子かかしよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この少女達が、いきおいよく自分の背丈せい位もある縄を飛んで、トンと下りると、その瞬間、簡単服アッパッパのスカートは、風を受けて乱れ、そこから覗くのは、ふっくりとした白い腿だった——。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
背丈せいのスラリとした輪郭りんかくと、手に尺八をたずさえているところから察しても、それは同宿の虚無僧、法月弦之丞のりづきげんのじょうと分る姿。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は唖然あぜんとなってその男の顔を見上げました。背丈せいが五尺七、八寸もありましたろうか。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は、僕の見ることのできた範囲では、非常に背丈せいの高い、恐ろしく痩せた、そうしてひどく蒼い顔をした男で、茶色の髪や頬ひげを生やして、灰色の眼はどんよりと曇っていた。
しっかりした道中かごちょう背丈せいのそろった駕かき、別に、肩代りが二人ついて、こなたへさしてくるのが見えた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「死んだものに背骨を入れかえて背丈せいを高くしても、何の役に立ちますか」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
背に子を負って、大脇差を構えたまま、ぬっと立っている相手の背丈せいが、魔みたいな大きさに見えたのだった。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの娘は年齢としから眼鼻立ち、背丈せい恰好、物腰、声音こわねまで、死んだお熊さんに瓜二つ……と申す仔細は、ほかでも御座んせん。あれは蔵元屋の前の御寮さんが、辰の年に生んだ双生児ふたごの片割れ……
城太郎は、辺りを見まわして、暗いさくの下へ駈け寄った。けれど、焼丸太の柵は、彼の背丈せいの三倍も高かった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、わしが背丈せいを貸して上げてやるから、柵の上で一応体を止めて、よく下を見定めてから跳ぶのだぞ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそろしく背丈せいのたかい男である。すそまでスラリとくろのおびなしのふくながし、むねには、ペルシャねこの眼のごとくキラキラ光る白金はっきんの十をたらしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背丈せいが高いので、漆革うるしかわの煙草入れを持ったあの親切な男の姿は、すぐ左次郎の目に映った。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茫漠ぼうばくとした野と空をながめて、次郎と万太郎がしばらく黙し合っているところへ、忽然と、背丈せいの小づくりな一人の男が、風に吹き送られて来たように、目の前に立って小腰をかがめて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アア、無理だ無理だ、そのお嬢ッちゃん、遠眼鏡のほうが背丈せいが高いや。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて童子は、自分の背丈せいよりも長い一軸を抱えてきて、壁へかけた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、深く注意もしなかったが、外に待っていた男は、編笠をかぶり、背丈せいもすがたも、離室に逗留とうりゅうしている若い武家とちがいなかった。殊に、その紋までが、同じ、丸の一羽雁ひとはがりであった、という。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なに、子供どころか、貴公よりは、背丈せいが高い。それに、しばらく見うけぬうちに、たいそう美人になったのう、あはははは。……何せい、よく訪ねてくれた。——ま、早速だが、見てくれい、わしの建てたこの家を
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまだに鴨居かもいまげさわりそうな背丈せいがある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)