しるし)” の例文
老いたる教師ハツバス・ダアダアのボルゲエゼ家の車のしるしに心づきて、蹣跚まんさんたる歩をとゞめ我等をゐやしたるは、おもはずなる心地せらる。
椰子の葉は勝利のしるし、中空高く、梢の敷桁となつて、光明の中に搖動ゆれうごきつつ廣がり、しかも其自由の重みに項垂うなだれる。
椰子の樹 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
彼は甲組の級長で襟に桜のしるしをつけてゐた。そして土曜日に戻つて来ると、新吉のために夜更まで軍艦をつくつた。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
赤い織色のきれに丸形な銀のしるしを胸に光らせた人々が続々通る。巡査は剣を鳴して馳廻かけまわっておりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……お味方におかれても、何か吉兆の物を兵のしるしになされましてはいかがなものとぞんじますが
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利先生の身ぶりや声色こわいろを早速使って見せる生徒——ああ、自分はまだその上に組長のしるしをつけた自分までが、五六人の生徒にとり囲まれて、先生の誤訳を得々とくとくと指摘していたと云う事実すら
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
式場に集る人々の胸の上には、赤い織色のきれ、銀のしるしの輝いたのも面白く見渡される。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)