こす)” の例文
しようものなら皆な食われて了う……そこは私もなかなかこすいや。だけれども世間の人はそう言わない。そこがねえつらいと言うもんです
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こすいものにはだまされ、家禄放還金の公債もきあげられ、家財を売りぐいしたり、娘を売ったり、やり一筋の主が白昼大道にむしろを敷いて、その鎗や刀を売ってその日のかてにかえた。
いいながらも弥生は、前をゆく二人をみつめているので、そばの豆太郎が、これはいささかいわくがありそうだわい! というようにこすそうに首をかしげたのに気がつかなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして画を検査してから、「れないなら售れないで、原物を返してくれるべきに、こすいことをしては困る」というと、「飛んでもない、正しくこれは原物で」と廷珸はいい張る。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と老人はその中に見知越みしりごしの顔を見つけ出さうと、こすさうな眼つきで皆の顔を見比べた。すると、一番前に末松謙澄けんちよう氏夫人が立つてゐるのが見つかつた。老人は鼻を鳴らして喜んだ。
雛罌粟色ひなげしいろ薔薇ばらの花、雛形娘ひながたむすめ飾紐かざりひも雛罌粟色ひなげしいろ薔薇ばらの花、ちひさい人形にんぎやうのやうに立派なので兄弟きやうだい玩弄おもちやになつてゐる、おまへは全體ぜんたいおろかなのか、こすいのか、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「君は次男坊だけれど、僕は四男坊だもの。倍方ばいかたこすく立ち廻らないと追いつかない」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
歌ちゃんあの方のお名前を知って居るかえ、いゝえ知らないよ過日このあいだ鳴鳳楼で大勢の時お目に懸ったばかり、伺って御覧な、何とかいうんだっけ、こすいよと笑いながらまた連立てあがって来たが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「そら、六年もいられて見ると、自分の娘と一緒やわ。こすいとこもあるけど、継子育ちのようなひねくれたとこがのうて、素直で、情愛があって、つくづく厄介な女や思いながら憎む気イせえへんねん。やっぱりあのは人徳があるねんな」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家康はこすさうな眼つきで、ちらと正則の容子ようすを見てゐたやうだつたが、だしぬけに
しかし思いのほかに目鼻立めはなだちの整った、そして怜悧りこうだか気象が好いか何かは分らないが、ただ阿呆あほげてはいない、こすいか善良かどうかは分らないが、ただ無茶ではない、ということだけは読取よみとれた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こんなこすいことをしてゐる、よく花客とくいが知らずにゐるな、と言つた。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
狐のやうにこすい記者は、目の前の機会をその儘見遁みのがすやうな事はしなかつた。
れはつれの白人にこすさうな眼つきをちらと呉れるなり