濫觴らんしょう)” の例文
あたりを見廻して、それが狐狸の化けたのででもなければ、平仄ひょうそくが合わないような気がした。これが今の宇奈月の濫觴らんしょうであったのだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ついに安政四年五月下田奉行は、ハリスにせまられて、規程章八箇条に調印し、いわゆる安政五年調印、現行条約の濫觴らんしょうを造れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今日流行はやっている静座法なども、その濫觴らんしょうは「阿珂術」なので、伊藤一刀斎景久は、そういう意味からも偉大だと云える。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我が国の女子教育は勿論もちろん御維新後のことであるが、西洋とても極めて近世のことで、わずかに一世紀以前に濫觴らんしょうしている。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その美なること錦に似ているというのでここに錦絵の名を負わすようになった——本朝版画のすすんだ道とにしき絵の濫觴らんしょうだが、これは後のこと。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人種の発達と共にその国土の底に深くも根ざした思想の濫觴らんしょうかんがみ、幾時代の遺伝的修養を経たる忍従棄権のさとりに、われ知らずえりただおりしもあれ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また何のはばかるところもなく、事実をそのままに写生したもので即ち後年の写生文の濫觴らんしょうであったのである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
騎士物語が近代小説の濫觴らんしょうとなっているのだが、なかで有名なランスロットを主人公とした長い物語がある。その中に美しい孤独のシャロットの姫君が登場する。
尤も、錬金術のそもそもの起りは必ずしも黄金製造のためではなかった。即ちその濫觴らんしょうともいうべきは古代エジプトに於ける金属の染色術に外ならなかったのである。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
間隔は二三間を隔てて濫觴らんしょうのような形のものが二つ、あとになり、先になり、前なるは振向いて後ろなるを誘うが如く、後ろなるが先んじて前なるものに戯るるが如く
晋の賈充かじゅうらが、漢・魏の律を増損して作った晋律二十編には、魏の刑名律を分けて、刑名律・法例律の二編としたが、法例という題号の濫觴らんしょうは、恐らくはこれであろう。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
少長どのに仕負けられては、独り御身様の不覚のみにてはこれなく、歌舞伎の濫觴らんしょうたる京歌舞伎の名折れにもなること、ゆめゆめご油断なきよう御工夫専一に願い上げ候。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其後天慶五年平朝臣公雅浅草寺ノ堂塔ヲ造営シ新ニコノ地ニ一堂建立シテ馬頭観音ノ尊像ヲ安置シ以テ浄域棲息じょういきせいそくノ生類ヲ守護得脱セシメント祈願ス。是レ今ノ駒形堂ノ濫觴らんしょうナリ”
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
これ即ち法医学の濫觴らんしょうにして、律法の庭に医師の進言の採用せられし嚆矢こうしなりと聞けり。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いわゆる三座と称せられた江戸大劇場しばい濫觴らんしょうで(中村座、市村座、山村座。そのうち山村座は、奥女中江島えしまと、俳優生島新五郎いくしましんごろうのことで取りつぶされた)、堺町さかいちょう葺屋町ふきやちょうにあった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
男性は女性からのこの提供物を受取ったことによって、又自分自らを罰せなければならなかった。彼はず自分の家の中に暴虐性を植えつけた。専制政治の濫觴らんしょうをここに造り上げた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これぞ我大日本国の開闢かいびゃく以来いらい、自国人の手を以て自国の軍艦ぐんかん運転うんてんし遠く外国にわたりたる濫觴らんしょうにして、この一挙いっきょ以て我国の名声めいせいを海外諸国に鳴らし、おのずから九鼎きゅうてい大呂たいりょおもきを成したるは
災難の濫觴らんしょうとも、起源ともいうべきその宿とは、先年、鰯をとるといって沖へ出たまま、一向たよりをよこさぬという七歳をかしらに八人の子供を持つ、呑気のんきな漁師の妻君のうちの二階の一室で
これより以来この奉行人を時人呼んで宗匠と号したと、『実隆公記』に見えているが、これけだし宗匠なる名の濫觴らんしょうであろう。しかしてこの会所開きの会が長享二年四月の始めに催された。
後年の博覧会は、本邦では、平賀鳩渓のこの催しが濫觴らんしょうとなったものである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「サイゴ」とは何の意味かと思うと、これは日本の軍人たちが、日露戦争に出征中、支那の女をつかまえては、近所の高粱カオリャンの畑か何かへ、「さあ行こう」と云ったのが、濫觴らんしょうだろうと云う事です。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冶金やきん、紡織、園芸の起源や、音楽、舞踊の濫觴らんしょうまでもおもしろく述べてある。神の観念が夢から示唆され、それが不可解不可能なるすべての事情の持ち込み所に進化するという考えももらされている。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この巨大な窯場の濫觴らんしょうかと思えば感慨無量である。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しばらく事を歴史に徴するに、わが劇場の濫觴らんしょうたる女歌舞伎おんなかぶきの舞踊は風俗を乱すのゆえもっ寛永かんえい六年に禁止せられ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一は吉原の起源を造り一は今日の富沢町の濫觴らんしょうしたということである。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)