洗髪あらいがみ)” の例文
旧字:洗髮
当世風の厚化粧入毛いれげ沢山の庇髪ひさしがみにダイヤモンドちりばめ女優好みの頬紅さしたるよりも洗髪あらいがみに湯上りの薄化粧うれしく思ふやからにはダリヤ
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうまでもきますまいが、髪を洗って、湯に入って、そしてその洗髪あらいがみ櫛巻くしまきに結んで、こうがいなしに、べにばかり薄くつけるのだそうです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その煙りは春風に浮きつ沈みつ、流れる輪を幾重いくえにも描いて、紫深き細君の洗髪あらいがみの根本へ吹き寄せつつある。——おや、細君の事を話しておくはずだった。忘れていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが、クリヴォフ夫人の洗髪あらいがみを怪しい男が縛りつけた——という個所ところに当る。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
洗髪あらいがみつかね小さき顔なりし
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「はい、」と柳の下で、洗髪あらいがみのお品は、手足の真黒まっくろな配達夫が、突当つきあたるように目の前に踏留ふみとまって棒立ぼうだちになってわめいたのに、驚いた顔をした。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洗髪あらいがみ黄楊つげくしをさした若い職人の女房が松の湯とか小町湯とか書いた銭湯せんとう暖簾のれんを掻分けて出た町の角には
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの女はその時廊下の薄暗い腰掛のすみに丸くなって横顔だけを見せていた。そのそばには洗髪あらいがみ櫛巻くしまきにした背の高い中年の女が立っていた。自分の一瞥いちべつはまずその女の後姿うしろすがたの上に落ちた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片手に洗髪あらいがみを握りながら走り寄りて、女の児を抱起だきおこして「危いねえ。」といたわる時、はじめてわっと泣出だせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君江はおばさんに呼ばれて下へ行き夕飯をすますと、洗髪あらいがみのまま薄化粧もそこそこに路地を出た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
藤尾は矛盾した両面を我の一字でつらぬこうと、洗髪あらいがみうしろに顔をうずめて考えている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お蝶、」とちと鋭くいうと、いつも叱るのをはぐらかす伝で、蝶吉は三指をいて的面まともつぶし島田に奴元結やっこもとゆいを懸けた洗髪あらいがみつややかなのを見せて、俯向うつむけにかしこま
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長火鉢と云うとけやき如輪木じょりんもくか、あか総落そうおとしで、洗髪あらいがみの姉御が立膝で、長煙管ながぎせる黒柿くろがきふちへ叩きつける様を想見する諸君もないとも限らないが、わが苦沙弥くしゃみ先生の長火鉢に至っては決して
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私あ上りまして見ましたがね、お夏さんが行水を使って、立膝でこう浴衣の袖で襟をいてると、女中がね、背後うしろ団扇車うちわぐるまってやつをくるくるとやってました、洗髪あらいがみだし、色は白し
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「また夢か」と欽吾は立ったまま、癖のない洗髪あらいがみ見下みおろした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爪弾つまびきを遣る、洗髪あらいがみの意気な半纏着はんてんぎで、晩方からふいとうちを出ては帰らないという風。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洗髪あらいがみ潰島田つぶししまだ、ばっさりしてややほつれたのに横櫛よこぐしで、金脚きんあし五分珠ごぶだまかんざしをわずかに見ゆるまで挿込んだ、目の涼しい、眉の間にくもりのない、年紀としはまだ若いのに、白粉気おしろいけなしの口紅ばかり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めし平生着ふだんぎに桃色のまきつけ帯、衣紋えもんゆるやかにぞろりとして、中ぐりの駒下駄、高いのでせいもすらりと見え、洗髪あらいがみで、濡手拭ぬれてぬぐい紅絹もみ糠袋ぬかぶくろを口にくわえて、びんの毛を掻上かきあげながら、滝の湯とある
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)