汐留しおどめ)” の例文
名は藩士の所得に関係なきがごとくなれどもそのじつは然らず。たとえば江戸汐留しおどめの藩邸を上屋舗やしきとなえ、広さ一万坪余、周囲およそ五百けんもあらん。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それぞれの汐留しおどめには、軍艦がはいっていました。それらは、こうして近くへきてみれば、さっき空から見たときよりも、ずっと大きくこわそうに見えました。
新橋の汐留しおどめ川岸かしから船が出ると、跡から芸者か丈助さん/\という声がするから、其の中に丈助さんという奴が居たので、丈助と云うのは手掛りの名だから
また眼の下の汐留しおどめの堀割から引続いて、お浜御殿の深い木立と城門の白壁を望む景色とは、季節や時間の具合によっては、随分見飽きないほどに美しい事がある。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その日の帰路かえりみちにも彼は電車の窓から汐留しおどめ駅と改まった倉庫の見える方を注意して、市街の誇りと光輝とを他の新しいものに譲ったような隠退した石造の建築物たてものを望んで行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
地方からの買出かいだし人が来ると、商談をまとめ、大きい木の箱にめて、秋葉原あきはばら駅、汐留しおどめ駅、飯田町いいだまち駅、浅草あさくさ駅などへそれぞれ送って貨車に積み、広く日本全国へ発送するのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駕籠かごは大変に費用がかかるので、今の汐留しおどめ停車場のそばにその頃並んで居た船宿で、屋根船を雇って霊岸島れいがんじまへ出て、それから墨田川を山谷さんや堀までさかのぼって、猿若に達したのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
新橋しんばし駅(今の汐留しおどめ)へ迎いに行ったら、汽車からおりた先生がお嬢さんのあごに手をやって仰向かせて、じっと見つめていたが、やがて手をはなして不思議な微笑をされたことを思い出す。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「十字路の角でパークしていて、築地から来る、あいつの車を見張るんだ。新橋のほうへ行くはずだから、キャッチしたら追尾して、汐留しおどめのあたりで、左側について一分ほど並行して走ってくれ」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
外濠そとぼりから隅田川に通ずるものには、日本橋川、京橋川、汐留しおどめ川の三筋があり、日本橋川と京橋川を横につないでいるものにかえで川、亀島川、箱崎川があることから、京橋川と汐留川を繋いでいるものに
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
汐留しおどめの海である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私が始めて腰の物なしで汐留しおどめの奥平屋敷にいった所が、同藩士は大に驚き、丸腰で御屋敷に出入しゅつにゅうするとは殿様に不敬ではないかなどゝ議論する者もありました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
偐紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ』の版元はんもと通油町とおりあぶらちょう地本問屋じほんどんや鶴屋つるや主人あるじ喜右衛門きうえもんは先ほどから汐留しおどめ河岸通かしどおり行燈あんどうかけならべたある船宿ふなやどの二階に柳下亭種員りゅうかていたねかずと名乗った種彦たねひこ門下の若い戯作者げさくしゃと二人ぎり
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
汐留しおどめ奥平侯の屋鋪やしきうちにあきたる長屋を借用し、かりに義塾出張の講堂となし、生徒の人員を限らず、教授の行届くだけ、つとめて初学の人を導かんとするに決せり。
慶応義塾新議 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それを越してかすみせき日比谷ひびやまるうちを見晴す景色と、芝公園しばこうえんの森に対して品川湾しながわわんの一部と、また眼の下なる汐留しおどめ堀割ほりわりから引続いて、お浜御殿はまごてんの深い木立こだちと城門の白壁を望む景色とは
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時は丁度ちょうど十月下旬で少々寒かったが小春こはるの時節、一日も川止かわどめなど云う災難にわずとどこおりなく江戸に着て、木挽町こびきちょう汐留しおどめの奥平屋敷に行た所が、鉄砲洲てっぽうずに中屋敷がある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
豊前中津の城主奥平おくだいら大膳太夫昌服まさもとの家来川田良兵衛、いみな某の二女。天保十年己亥きがいの歳四月二十五日芝汐留しおどめなる奥平家の本邸内に生れ主家の女中になっていた。文久辛酉の年には二十三歳である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すでに奥平の屋敷が汐留しおどめにあって、彼処あすこに居る(別室に居る年寄を指して)一太郎いちたろうのお祖母ばばさんがその屋敷に居るので、五歳いつつばかりの一太郎が前夜からお祖母さんの処にとまって居た所が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分がそもそも最初に深川の方面へ出掛けて行ったのもやはりこの汐留しおどめ石橋いしばしの下から出発するちいさな石油の蒸汽船に乗ったのであるが、それすら今では既に既に消滅してしまった時代の逸話となった。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)