森羅万象しんらばんしょう)” の例文
旧字:森羅萬象
昔の仙人は、一つのつぼの中に森羅万象しんらばんしょうの姿を見たというが、一杯の茶碗の湯の中にも、全宇宙の法則があるということも出来よう。
「茶碗の湯」のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
森羅万象しんらばんしょうことごとく音楽の題材ならざるはなく、その思想の動きがすべて旋律と和声とを持っていたと言ってもしつかえはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
森羅万象しんらばんしょうをいちいちそれに類似した色で現わさねばならぬという仕事は、私にいわせると細工師さいくしの仕事で、美術の範囲ではありません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よく考えると何にもないのに、通俗では森羅万象しんらばんしょういろいろなものが掃蕩そうとうしても掃蕩しきれぬほど雑然として宇宙に充牣じゅうじんしている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目を天地自然の森羅万象しんらばんしょうに映してその心の沈潜するのを待って、そうしてあるかないかの一点の火がその心の底にともり始めて
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私は日常応接する森羅万象しんらばんしょうに親しみを感じ、これを愛玩あいがんしては、ただこの中にプレイしているのだと思っている。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
森羅万象しんらばんしょうことごとく皇国すめらみくにに御引寄せあそばさるる趣きをく考へわきまへて、外国とつくにより来る事物はよく選み採りて用ふべきことで、申すもかしこきことなれども
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この考えを更に押し拡め直接筋力と比較する事の出来ぬ種々の引力斥力を考えて森羅万象しんらばんしょうを整然たる規律の下に整理するのが物理学の主な仕事の一つである。
物質とエネルギー (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わずか四つのいとに、森羅万象しんらばんしょうの悲喜さまざまな感情をかなでて人を動かそうとする芸術家である以上
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実物とすこしも違わぬ森羅万象しんらばんしょうが見えるかと思うと、想像も及ばぬ奇抜、不自然な風景や、品物がゴチャゴチャと現われたり、その現われた風物に、現実世界に於ける心理や、物理の法則が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし一旦体得したなら、森羅万象しんらばんしょうは自由自在、宇宙をさえも制御せいぎょ出来る
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はすの糸、一筋を、およそ枚数千頁に薄く織拡げて、一万枚が一折ひとおり、一百二十折を合せて一冊にじましたものでありまして、この国の微妙なる光にひらきますると、森羅万象しんらばんしょう、人類をはじめ、動植物
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四季の循環によって花鳥草木その他天然界の森羅万象しんらばんしょうはその形象を異にします。春夏秋冬という事を忘れては、景色は存在しないのであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
また一茶いっさには森羅万象しんらばんしょうが不運薄幸なる彼の同情者慰藉者いしゃしゃであるように見えたのであろうと想像される。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その御神徳の広大なるゆえに、しきの選みなく、森羅万象しんらばんしょうのことごとく皇国すめらみくにに御引寄せあそばさるる趣をく考へわきまへて、外国とつくにより来る事物はよく選み採りて用ふべきことで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人間の脳髄が全身三十兆の細胞の一粒一粒の中を動きまわる意識感覚の森羅万象しんらばんしょうを同時に照しあらわしている有様は、蜻蛉とんぼの眼玉が大千世界の上下八方を一眼で見渡しているのと同じ事である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芭蕉は万葉から元禄までのあらゆる固有文化を消化し総合して、そうして蒸留された国民思想のエッセンスを森羅万象しんらばんしょうに映写した映像の中に「物の本情」を認めたのである。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自然の森羅万象しんらばんしょうがただ四個の座標の幾何学にせんじつめられるという事はあまりに堪え難いさびしさであると嘆じる詩人があるかもしれない。しかしこれは明らかに誤解である。
相対性原理側面観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)