押入おしい)” の例文
だが、そこはまるで押入おしいれのようなせまい穴で、右も左も前も上も下も、みな行きどまり、どこへ行きようもなかったのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
刀を持って内へ押入おしいる組になったり、弓を持って外で立番する組にもなった。どちらの組に加っても、相当な働きをした。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
宇野浩二うのこうじさんでしたかも何かへ書いていましたが、私がやっぱり、押入おしいれの暗闇の中で幻燈を写す子供でした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とこの横にちがだながあって、えんと反対の側には一間いっけん押入おしいれが付いていました。窓は一つもなかったのですが、その代り南向みなみむきの縁に明るい日がよく差しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仁太にたんとこよ先生。壁が落ちて押入おしいれん中ずぶぬれになってしもたん。見にいったら、中がまる見えじゃった。ばあやんが押入れん中でこないして天井てんじょう見よった」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そして黙って押入おしいれをあけて二枚のうすべりといの角枕かくまくらをならべていてまた台所の方へ行った。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
艇庫ていこには、もう、てしまった艇番夫婦ふうふをのぞいては、だれ一人いなくなっています。二階にあがり、念のため押入おしいれをさがしてみましたが、もとより、あろうはずがありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まさか床の下や押入おしいれに一日隠しとくわけにもゆきませんし、また、始終しじゅう連れて歩くわけにもまいりません。それかって、このまま海へ逃がしてしまうのも、何だか心残りです。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
からだひとつ消えよかしと両手を肩にすがりながら顔もてその胸を押しわけたれば、えりをばきひらきたまひつつ、の下にわがつむり押入おしいれて、両袖りようそでうちかさねて深くわがせなおおたまへり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
押入おしいぐつてなにやらの小風呂敷こぶろしき取出とりいだし、これは此子このこ寐間着ねまきあはせ、はらがけと三じやくだけもらつてゆきまする、御酒ごしゆうへといふでもなければ、めての思案しあんもありますまいけれど、よくかんがへてくだされ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おのずと会得することが出来た今まで肉体の交渉こうしょうはありながら師弟の差別にへだてられていた心と心とが始めてひしとい一つに流れて行くのを感じた少年の頃押入おしいれの中の暗黒世界で三味線の稽古を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしはちょうど押入おしいれをあけて、中にあった木の箱を持ちあげていたので、すぐには足の方が見られなかったんです。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
押入おしいれの連想れんそうは、一学期のある日の、仁太にたを思いだして笑わせたのであった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「どうして、押入おしいれに天皇陛下がいるの?」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)