打算ださん)” の例文
近代の女性はなかなか巧利こうり的な所もあって兎角とかく利害の打算ださんの方が感情よりも先に立って利害得失を無視してどこまでも自分の感情を
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
利害りがい打算ださんからへば無論むろんことたん隣人りんじん交際かうさいとか情誼じやうぎとかてんからても、夫婦ふうふはこれよりも前進ぜんしんする勇氣ゆうきたなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「勘定? ……フーム、すると貴様はなんだな、すべて最初から、打算ださん一方でかかっているのか。武士の意気地もなく、また、復讐の念慮もなく」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
善悪正邪せいじゃはとにかく、損徳そんとくの点から打算ださんしても、なんの必要もなきところに、感情をついやすことはおろかなわざである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしその割に彼女や辰子たつこの家庭の事情などには沈黙していた。それは必ずしも最初から相手をぼっちゃんと見縊みくびった上の打算ださんではないのに違いなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「こいつさえ死ねば、何もかもよくなる」ということを打算ださんしていた。どんなふうによくなるかはわからなかった。しかし、おそらくよくなることは、まちがいないと感じていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
季節きせつむねしくつひやすことが一にちでも非常ひじやう損失そんしつであるといふ見易みやす利害りがい打算ださんからかれ到頭たうとうまかされてまた所懸命しよけんめい勞働らうどう從事じうじした。かれはもう卯平うへい一言ひとことくちかなくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは決してその結果によって打算ださん的な仕向けをするといういやしい考えからでは無くて、自分の身辺しんぺんくらまして置くという手前勝手を許さない事になり
飛びつき損じて畳の上へこぼれたものは打算ださんの限りでない。随分無分別な飯の食い方である。吾輩はつつしんで有名なる金田君及び天下の勢力家に忠告する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その多いのが必ずしも悪いとわが輩は言わぬ。おのれを捨てて社会の利益をはかるの望ましきことはいうまでもない。ことすに国家観念こっかかんねんより打算ださんするもはなはだよみすべきことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
始めて逢つた時、代助はすぐ左様さう思つた。けれども、三年間に起つた自分の方の変化を打算ださんして見て、或は此方こつちこゝろむかふに反響を起したのではなからうかと訂正した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まして、其他の談話に至ると、始めから、平岡を現在の立場から、自分の望む所へおとし込まうと、たくらんでかゝつた、打算ださん的のものであつた。従つて平岡をうする事も出来なかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)