悄氣しよげ)” の例文
新字:悄気
「どうしたの?」と彼はたづねた——「すつかり悄氣しよげてしまつて。本當にあの子を連れて行きたいの? あの子が殘されるのが辛いの?」
彼は悄氣しよげ切つた調子になつて、云つた。そして呼吸苦しさから、輕い痙攣を感じ出したらしい手附きして、機械的に盃を唇に運んでゐた。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
半刻ばかりの後、八丁堀組屋敷で、與力笹野新三郎の前に錢形の平次ともあらう者が、すつかり悄氣しよげ返つて坐つて居りました。
寂しがりの弱虫だから、失職の打撃の後の正月を、さぞかし悄氣しよげて暮らして居る事だらう。今から行つて誘ひ出して、晩には一ぱい飮まうかな。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
其でも滅多と欝いだり悄氣しよげたりしてゐるやうなことはなかツたが、何うかするとツク/″\と
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
相手は何處迄も御人好の御坊ちやまの、泣き出し相に、なさけない顏でおろおろして居るまだるつこさ、芳公の啖呵も折角、響が來ないので、聊か之も張合なさの悄氣しよげてい
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
其後二度許り竹山を訪ねて來たが、一度はモウ節季近い凩の吹き荒れて、灰色の雲が低く軒を掠めて飛ぶ不快いやな日で、野村は「患者が一人も來ない。」と云つて悄氣しよげ返つて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おや/\前勘まへかんか。いなうでない。……とくいち三等さんとう相場さうばづけである。温泉をんせんあめたなごころにぎつて、がものにした豪儀ごうぎきやくも、ギヨツとして、れは悄氣しよげる……はずところを……またうでない。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
悄氣しよげちや駄目ですよ、しつかりなさいな」
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
悄氣しよげてゐる少年に對して、實業家と稱される種類の人間の屡々口癖にいふやうなせりふ迄口の外に出した。
八五郎一ぺんに悄氣しよげて了ひました。河内山の芝居でも解る通り、寛永寺の役僧は見識のあつたもので、町方の御用聞などは、指も差せるものではありません。
あまりひどく悄氣しよげ込んでるので、もう二三こと云ふと涙が出さうです——それ、もうそこに、キラ/\光つて、濕つて、一滴ひとしづくまつげからこぼれて敷物の上に落ちた。
俺れは其爲め一文も學資を出さぬから、お前はお前の力で遣れと云つたやうな、皮肉な許しであつたので、少しは悄氣しよげたが、それでも好きな道だから何うしても遣り遂げるといふ決心をした。
自伝 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「そして、少しばかり悄氣しよげてね。」と彼は云つた。「どうしたのです? 云つて御覽なさい。」
東京に着いて、母や弟妹や、親類友だちに久々で逢ふ時、自分はもう悄氣しよげてゐた。誰しも自分を異常なる出來事の主人公と見做してゐるらしく思はれてしかたがなくなつた。
納屋へ入ると、仁助と吉三郎は足止めを喰つて、すつかり悄氣しよげ返つて居ります。
御影みかげの田原の家はひつそりして、あるじの悄氣しよげてゐるのに引込まれ、子供達迄つまらない姿をしてゐるだらうと想像してゐたのにひきかへ、方々の酒藏の間をぬけて海邊に出ると
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
二度目にがつかりして兼吉が來た時、平次は日頃にもなく悄氣しよげ
平次は本當に悄氣しよげて居る樣子でした。
清吉はひどく悄氣しよげ返りました。