いこ)” の例文
我等かしこに歩めるに、そこには岩のうしろなる蔭にいこへるむれありてそのさま怠惰おこたりのため身を休むる人に似たりき 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
下には聖母のいこひたまひし墓穴ありて、もゝいろちいろの花これをおほひたり。われはかの柑子を見、この畫を見るに及びて、わづかに我にかへりしなり。
西牟婁郡朝来あっそ村は、従来由緒もっとも古き立派な社三つありしを、例の五千円の基本金に恐れてことごとく伐林し、只今路傍にいこうべき樹林皆無となれり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
いまだ浹辰せふしんを移さずして、氣沴きれいおのづから清まりぬ。すなはち牛を放ち馬をいこへ、愷悌がいていして華夏に歸り、はたを卷きほこをさめ、儛詠ぶえいして都邑に停まりたまひき。
水にむかったテレースにいこうと、此の前にもいた宿の女が出て来た、昼食を命じて置いて、その間森の中を歩きまわる、断崖の中腹からは、薄い霧が絶えず湧き上って
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
東岸一帶は小高い丘をなしておのづから海風をよけ、幾多の人家は水のはたから上段かけて其蔭に群がり、幾多の舟船は其蔭にいこうて居る。余等は辨天社から燈臺の方に上つた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
失せし夫婦の弔ふ者もあらで闇路やみぢの奥に打棄てられたるを悲く、あはれなほ少時しばし留らずやと、いとめて乞ひすがると覚ゆるに、行くにも忍びず、又立還りて積みたる土にいこへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
庭と水との吐く熱気は、こゝに閉されて休みいこへり。あゝ。寺院の静寂、清浄の安眠よ。
向こうの松林には日光豊かにれ込みて、代赭色たいしゃいろの幹の上に斑紋を画き、白き鳥一羽その間にいこえるも長閑のどかなり。藍色の空に白き煙草たばこの煙吹かせつつわれは小川に沿いて歩みたり。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私は彼をいこう暇なく興奮させ、その血壓を絶えず上衝させることに手段をつくした。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御者はかまちいこいて巻きたばこくゆらしつつ茶店のかかものがたりぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
榕樹の影にいこ黄昏たそがれよ!
かの日の歌【二】 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
その胸にわれはいこはむ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
(皆々降りていこふ。)
貫一はそのなかばを尽して、いこへり。林檎をきゐるお静は、手早く二片ふたひらばかりぎて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わが身はこゝに仏蘭西フランスの、やさしき大気のうちにつゝまれて、心おどろき胸重し。ほゝゑめる静けき Basqueバスク の山と水。雲は集りて、Guétharyゲタリー のいたゞきにいこへり。
いにしえの秩序と静寧のうちいこひたるこそ嬉しけれ。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)