御蔵おくら)” の例文
旧字:御藏
そして地中で養分をたくわえている役目をしているから、それで多肉たにくとなり、多量の澱粉でんぷんを含んでいる御蔵おくらをなしているが、それを人が食用とするのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
どもりながらこう言った者がありました。これはそそっかしいので通った市川という御蔵おくらの係りでありました。
御蔵おくらからあの通りに、火鉢は出しておきましたなれど、御家老の三宅藤兵衛様が、公儀の罪人へ火鉢など与える事は、以てのほかだというお叱りで……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五月はじめの或る午後、——御蔵おくらの渡しと呼ばれる渡し場の近くで、繁次はおひさにかにを捕ってやっていた。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
屋根船はその間にいつか両国のにぎわいぎ過ぎて川面かわもせのやや薄暗い御蔵おくら水門すいもんそと差掛さしかかっていたのである。燈火の光に代って蒼々あおあおとした夏の夜の空には半輪はんりんの月。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どれほどの米穀をたくわえ、どれほどの御家人旗本を養うためにあるかと見えるような御蔵おくらの位置はもとより、両岸にある形勝の地のほとんど大部分も武家のお下屋敷で占められている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日こんにちのお客来で御蔵おくらから道具を出入だしいれするお掃除番が、粗忽そこつで此の締りを開けて置いたかしらん、何にしろしからん事だと、段々側へ来て見ますと、塀外へいそとに今の男が立って居りますからハヽア
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近衛このえ殿老女村岡、御蔵おくら小舎人こどねり山科やましな出雲、三条殿家来丹羽豊前ぶぜん、一条殿家来若松もく、久我殿家来春日讃岐さぬき、三条殿家来森寺困幡いなば、一条殿家来入江雅楽うた、大覚寺門跡もんぜき六物ろくぶつ空万くうまん、三条殿家来富田織部。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
浅草寺せんそうじに向って右側で、御蔵おくらの裏がぐ大川になっており
おひさが御蔵おくらの渡しへいったとき、繁次は河岸っぷちにたたずんで、暗くなった隅田川の水面をながめていた。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『困った熱病でござるの。法の尊厳を承知して犯したとならば、なお悪いわ。——とにかく火鉢など相成らん。御納戸おなんど! ここに出ておる火鉢は、元の御蔵おくらの内へ戻しておけ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道庵先生は、その関門を如何いかように通過して、次なる御蔵おくらに入って来たのか?
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また途切とぎれがちな爪弾つまびき小唄こうたは見えざる河心かわなか水底みなそこ深くざぶりと打込む夜網の音にさえぎられると、厳重な御蔵おくらの構内に響き渡る夜廻りの拍子木が夏とはいいながらも早や初更しょこうに近い露の冷さに
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)