廻廊かいろう)” の例文
が、長い廻廊かいろうの屋根から、人気ひとけのない庭へ飛び下りると、たちまち四五人の警護けいごの侍に、望みの通りからめられました。その時です。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
身を横にして、その穴に這い込みながら、だらだらと石の廻廊かいろうに降りた時に、仰向あおむいて見て始めてその堅固なのに気がついた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを支える正面十何本の太い円柱と大きな斗栱ときょう、この雄大な金堂を囲む廻廊かいろうも今のような単廊ではない、壮麗な複廊である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ワーッというときの声は、もう山門ちかくまで聞えてきた。寺内は、本堂ほんどうといわず、廻廊かいろうといわずうろたえさわぐ人々の声でたちまち修羅しゅらとなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本堂から続いているらしい美しいしゅと緑との欄干らんかんをもった廻廊かいろうが、左手から中央へ向かってずーっと伸びて来ている。中央には階段があって、終っている。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも、御堂みどうのうしろから、左右の廻廊かいろうへ、山の幕を引廻ひきまわして、雑木ぞうきの枝も墨染すみぞめに、其処そこともかず松風まつかぜの声。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廻廊かいろうにある遠く離れた私たちの座席から、どんなに深い驚きといぶかしさでながめたことであろう! あんなにしかつめらしく温和な顔をして、あんなにつやつやした
龍巻たつまきは、したうちをしてふりかえった。やしろ廻廊かいろうにたって、小手こてをかざしていた民蔵たみぞうは、なおぎょうさんにとびあがって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廻廊かいろうこそないがこの配置は法隆寺と全く同一である。しかし寺域は法隆寺の十分ノ一ぐらいのものであろうか。前述のごとく、金堂も講堂も名ばかりと云っていいほど荒れ果てている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
飛びさがって、うしろの大刀をつかんだ日本左衛門は、そのこじりを向けて、お蝶へ体当たいあてをかけましたが、しかし、それよりも早く、彼女は本堂の廻廊かいろうを目がけて逃げ走っています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やかたは、中央の大きな母屋おもや寝殿しんでんとよび、また渡殿わたどのという長い廻廊かいろうづたいに、東と西とに対ノ屋が、わかれていた。そのほか、泉殿いずみどのとか、つり殿とかも、すべて中心のかくをめぐっている。
また、廻廊かいろうのかげからも、ふたりの武士が、足音ひそやかに、階段をおりてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御錠口にかかる手前の廻廊かいろうの梅、南殿の梅、三の丸の梅庭、ぽちぽちと胡粉ごふんを打ったような花をつけ初めて、かすむ夜は、大奥の明りも笑いさざめいて来ましたが、妖鬼のうわさは止みません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にとられた顔をして、渋沢は、廻廊かいろうから
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)