ばば)” の例文
万作は「のうばば。お光ちょうは変なだのう、久しゅう歌わねえからどうしたんべいと思ったら、ひょっくら歌い出したのう」
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一対のばばが、背後うしろで見張るようにも思われたし、縄張の動く拍子に、矢がパッと飛んで出そうにも感じたのである。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はまず天狗巌をながめて、次に婆さんを眺めて、三度目には半々はんはんに両方を見比みくらべた。画家として余が頭のなかに存在する婆さんの顔は高砂たかさごばばと、蘆雪ろせつのかいた山姥やまうばのみである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お辰が御前に惚たも善く惚たと当世の惚様ほれようの上手なに感心して居るから、ばばとも相談して支度出来次第婚礼さするつもりじゃ、コレ珠運年寄の云う事と牛のしりがい外れそうで外れぬ者じゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
じきにそのばばはコレラで死んでしまって、その店もなくなってしまいました。
「みな様へ、このばばから、おねがいがあるが」
ばばは洗濯の河にて
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ほんに、お光あ何してるだんべい」、飯焚いて居たばばはふっと気づいて其まま声を立て「お光ちょうお光ちょう」と呼んだが返事がない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人形使 されば、この土地の人たちはじめ、諸国から入込いりこんだ講中こうじゅうがな、ばば媽々かかあじい、孫、真黒まっくろで、とんとはや護摩ごまの煙が渦を巻いているような騒ぎだ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なかばは自分の体のごときお雪はあらず、あまりの大降に荒物屋のばばも見舞わないから、戸を閉め得ず、ともしけることもしないで、渠はただ滝のなかに穴あるごとく
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遥かにその姿の浮いた折から、荒物屋のばばなんど、五七人乗った小舟を漕寄こぎよせたが、流れて来る材木がくるりと廻ってふなばたを突いたので、船は波に乗ってさっ退いた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほんに、もうお十夜だ——気むずかしい治兵衛のばばも、やかましい芸妓屋の親方たちも、ここ一日いちんち二日ふつか講中こうじゅうで出入りがやがやしておるで、そのひまそっと逢いに行ったでしょ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
して見ると、先刻さっき、路をふさいでたたずんだ、ばば素振そぶりも、通りがかりに小耳に挟んだことばの端にも、深い様子があるのかも知れぬ。……土地の神が立たせておく、門番かとも疑われる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
〆太鼓の男 稽古中けいこちゅうのお神楽で、へい、囃子はやしばかりでも、大抵村方むらかたは浮かれあがっておりますだに、面や装束をつけましては、ばば媽々かかまでも、仕事かせぎは、へい、手につきましねえ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何と、ばばあごをしゃくって、指二つで、目をはじいて、じろりと見上げたではないか。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、あの荒物屋のばばっていうのが、それが、何よ、その清全寺で仏像の時の媼なんだから、おいらにゃあ自由が利くんだ。やしきからじゃあ面倒だからね、荒物屋を足溜あしだまりにしちゃあ働きに出るのよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)