唐紙とうし)” の例文
「余りますか? そんならひとつ、先生、恐縮でがんすが、その余りでもって、唐紙とうしを一枚けえていただきてえもんでごわす」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔し島田は藤田東湖ふじたとうこの偽筆に時代を着けるのだといって、白髪蒼顔万死余云々はくはつそうがんばんしのようんぬんと書いた半切はんせつ唐紙とうしを、台所のへっついの上に釣るしていた事があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抒情詩じょじょうしでは子規の俳句や、鉄幹の歌の生れぬ先であったから、誰でも唐紙とうしった花月新誌や白紙はくしに摺った桂林一枝けいりんいっしのような雑誌を読んで、槐南かいなん
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と吉野が、すずりを寄せて、墨をおろしている間に、禿かむろは次の部屋へ毛氈もうせんをのべ、そこへ唐紙とうしひろげて行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどお経筒きょうづつの形にり抜いてあります底の方に、古い唐紙とうしに包んだ灰があるにはありますが、その灰包みのまん中は、チャント巻物の軸の形にくぼんでおります。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
嵯峨さが帝が古万葉集からえらんでお置きになった四巻、延喜えんぎみかどが古今集を支那しな薄藍うすあい色の色紙を継いだ、同じ色の濃く模様の出た唐紙とうしの表紙、同じ色の宝石の軸の巻き物へ
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大きい子どもは唐紙とうしや白紙に書くのもある。七夕には五色のいろ紙に書いて笹竹に下げる。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兄弟分が御世話になりますからとの口上を述べに何某が鹿爪しかつめらしい顔で長屋を廻ったりした。すると長屋一同から返礼に、大皿に寿司をよこした。唐紙とうしを買って来て寄せ書きをやる。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はすぐにそれを持って町に行き、新店しんみせという店で、唐紙とうしと白紙をたくさん買った。たくさんと言っても五銭か十銭かだったろう。そして釣がないからと言うので、代は払わずに帰った。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
唐紙とうしにお手本を写し描き、運筆の練習をいたしました。時には写生をしたり、古画の模写等をしました。私は幼い時から、母から江戸絵の美人画を与えられたせいか、人物画が好きでした。
短冊形たんざくがたに切った朱唐紙とうしの小片の一端から前歯で約数平方ミリメートルぐらいの面積の細片を噛み切り、それを舌の尖端に載っけたのを、右の拇指のつめの上端に近い部分に移し取っておいて
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
巻いた唐紙とうしをあおい畳の上に長くひろげた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
皺苦茶しわくちゃな紙でも、のばして使った。舶載はくさい唐紙とうし一枚にめぐり会う時は、それへ筆を落すことを、恋人とちぎるように昂奮して、彼等は、詩を書いている、を描いている。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
字などもちょっときれいで、唐紙とうしに香のかおりのませたのに書いて来る手紙も、文章も物になってはいなかった。また自身も親しくなった少弐家の次男とつれ立ってたずねて来た。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それは子規氏の特有の原稿用紙(唐紙とうし? に朱罫しゅけい、十八行二十四字)
子規の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ボロボロの唐紙とうし半切はんせつに見事な筆跡で、薄墨の走り書きがしてあった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もう暗かったが使いを出したのである。親しい交際はないが、こんなふうに時たま手紙の来ることはもう古くからのことでれている女房はすぐに女王へ見せた。秋の夕べの空の色と同じ唐紙とうし
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
用箋ようせん薫物たきものの香をませた唐紙とうしである。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)