どもり)” の例文
こんなときの正成は、悪い方の右眼のまぶたに、かろい痙攣けいれんの風を示すのだった。どもりがその感情のつかえを、唇に見せる、あれと似ている。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古釘のように曲った老人の首や、かいこのようにせぐくまっているどもり男の背中や、まどろんでいるおんなの胸倉や、蒼白い先達ソンダリの吊上った肩を、切傷のような月が薄淡く照らした。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
産屋うぶやなどへそんなお坊さんの来られたのが災難なんだね。そのお坊さんの持っている罪の報いに違いないよ。おしどもりは仏教をそしった者の報いに数えられてあるからね」
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どもりながら言ッて文三は差俯向さしうつむいてしまう。お勢は不思議そうに文三の容子をながめながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
五、河童かっぱの川知らず、山案内ギイドの身知らず。ブルタアニュの漁師の着る寛衣ブルウジにゴム靴という、はなはだ簡便ないでたちをしたどもりのガイヤアルの角灯ランテルヌを先登にして「尖り石ピエール・ポアンチユ」のホテルを出発。
その鏘々たる先生が、最前さいぜんからどもりの御姫様のようにもじもじしているのは、何かわくのある事でなくてはならん。単に遠慮のみとはとうてい受け取られない。主人も少々不審に思った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかもどもりで、多病で、まことに劣等な資質を抱いて生れて居たのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
どもりの真似をするとしまひには吃になつて了ふ。気違の真似をすると終には気違になつて了ふ。俺もこんな妄想をこしらへてゐるうちに、或は本統に被害妄想狂になつて了ふかもしれない。全く愚なことだ。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
どもりの、頭髪かみのけほうきのように延びた、人の好い男である。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どもりの又平の作ウ、奈良朝御所の図ウ!」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)