口辺こうへん)” の例文
旧字:口邊
人々はその時、怪猫かいびょう口辺こうへんを見た。そして余りの恐ろしさに、思わず顔をそむけないではいられなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それが、また厳粛な問題なんですわ」伸子は口辺こうへんを歪めて、妙に思わせぶりな身振をしたが、額には膏汗あぶらあせを浮かせていて、そこから、内心の葛藤が透いて見えるように思われる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
長老は、それを聞くと、かっと眼をいたが、次の瞬間には、口辺こうへんみを浮べ
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おおよその人が老年になって、往事を無邪気に顧みて、ただそれなりにしわばんだ口辺こうへんに微笑をたたえ得るならば、それでも人生の静かな怡楽いらくが感ぜられもし、またその境地で満足してもいられよう。
対馬守の口辺こうへんには思わずもふいっと心よい微笑がほころびた。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
その大男は古びた背広の襟を立てて口辺こうへんを隠し、鳥打帽を思い切り深く冠って両眼までも隠す様にしていたので、咄嗟の場合、動揺する懐中電燈の光では、顔なぞ全く分らなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四郎は外に出ると、暗闇の中でニヤリと薄気味の悪い笑いを口辺こうへんに浮べた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
口紅ばかりいくら赤くしても、口辺こうへんの筋肉が力なくだれてしまって生気がない。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
屋根の頂上の金色の棒から、ブランと下って、巨大な時計の振子みたいに、右に左に揺れている、黄金の守宮、その鍍金仏の様な、仮面の口辺こうへんには、おびただしい鮮血が、ギラギラと輝いている。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)