低廉ていれん)” の例文
この界隈かいわいのことだから代価はしごく低廉ていれんである。あわれな女はその僅少な金をるために、自分の意志で、男と同伴して行く。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
今度の縊死者は、香料ブローカーと違って、極く快活な人物で、その陰気な部屋を選んだのも、ただ室料が低廉ていれんだからという単純な理由からでした。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けだ斯様かやうな翻訳の大量生産はさういふ風に資本家と文人とに幸福を与へるのみならず、また世界の大思想大文芸を、極めて低廉ていれんな値を以て万象に頒与はんよするのであるから
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
安南漆あんなんうるしといふものは、壺漆つぼうるしと云はれて、品質も粗悪で、価格も低廉ていれんであつたので、漆商の老舗しにせでは、安南漆を敬遠してゐた傾向があつたものだが、戦時中は日本でも品不足で
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それでも入場料は五銭とか八銭とかの謂わば大衆的な低廉ていれんのもので手軽に見られる立見席もあり、私たち貧書生はたいていこの立見席の定連じょうれんで、これはしかし、まあ小芝居の方で
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もとより一般の需要は十円内外の低廉ていれんな種類に限られているのだろうが、それにしても、一つ一銭のペンや一本三銭の水筆に比べると何百倍という高価に当るのだから、それが日に百本も売れる以上は
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
機械的大仕掛おおじかけの製造盛んに行われ、低廉ていれんなる価格を以て、く人々の要に応じ得べきに至るといえども、元来機械製造のものたる、千篇一律せんぺんいちりつ風致ふうちなく神韻しんいんを欠くを以て、ひとえに実用に供するにとどまり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
我が国の小学教師の俸給ほうきゅうは非常に低廉ていれんで、平均十五円内外ないがいである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
小さい坑夫は、駆使し易く、つ賃銀が低廉ていれんだった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)