休茶屋やすみぢゃや)” の例文
その頃、小田原の城跡には石垣や堀がそのまま残っていて、天主台のあった処には神社が建てられ、その傍に葭簀張よしずばり休茶屋やすみぢゃやがあって、遠眼鏡とおめがねを貸した。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
氷店こおりみせ休茶屋やすみぢゃや、赤福売る店、一膳めし、就中なかんずくひよどりの鳴くように、けたたましく往来ゆききを呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ日脚ひあしの淀みに商売あきない逢魔おうまどき一時ひとしきりなりを鎮めると
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところどころの休茶屋やすみぢゃやの、雨ざらしにされた床几しょうぎの上には、枯葉にまじって鳥のふんが落ちている。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
細いどぶにかかった石橋を前にして、「内陣ないじん新吉原講しんよしわらこう」と金字きんじで書いた鉄門をはいると、真直まっすぐな敷石道の左右に並ぶ休茶屋やすみぢゃや暖簾のれんと、奉納の手拭が目覚めるばかり連続つながって
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
赤く塗った板塀に沿うて、妙見寺の門前に葭簀よしずを張った休茶屋やすみぢゃやへと、蘿月は先に腰をおろした。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
南足立郡沼田村にある六阿弥陀第二番の恵明寺えみょうじに至ろうとする途中、休茶屋やすみぢゃやの老婆が来年は春になっても荒川の桜はもう見られませんよと言って、悵然ちょうぜんとして人に語っているのを聞いた。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蘿月は休まず歩きつづけた暑さにほっと息をつき、ひろげた胸をば扇子せんすであおいだが、まだ店をしまわずにいる休茶屋やすみぢゃやを見付けて慌忙あわてて立寄り、「おかみさん、ひやで一杯。」と腰をおろした。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ねぎを植えた畠や、草の生えた空地の間に釣舟屋が散在しているばかりであったが、その後散歩するごとに、貸家らしい人家が建てられ、風呂屋の烟突が立ち、橋だもとにはテント張りの休茶屋やすみぢゃやが出来
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)