いさ)” の例文
「御坊も勅勘の身でござるぞ、その身で他人の咎の許しを貰おうとは、いささか笑止、そなたの言葉は信用できぬ」
これほど生活は一変していても、日々の儀礼や感じ方にはいささかの変化も見えなかった。人もそれに不審を抱かず、各自もそれを当然としているのであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
だが断わっておくが哲人は至極まじめであって、いささかもふざけたりした気持などはない、それどころかむしろ哲学的といってもいいほど敬虔けいけんな態度なのである。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
武村兵曹たけむらへいそういささか得意とくゐいろうかべてはなうごめかしたが、軍艦ぐんかん」の甲板かんぱんには仲々なか/\豪傑がうけつる。
無産の牛酪バタきれ——厚さ二分弱一寸四方——五十カペイカ——牛乳——とよりもいささか牛乳に似た冷水——が一合日本の二十四銭。チョコレイト——わが国において金五十銭ぐらいのもの——が約八円。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
彼れは透谷の坐りたるかたはらに若干じやくかんの紙幣が紙に包まれて在りしことを発見せり。而して其紙片には失敬ながらいささか友人の窮を救はんとすと云ふ趣意を書きありき。彼れは之を見て感泣したりと云ふ。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
けれどそう思ってよくよく注意してみたが、庄三郎のようすにはいささかも変ったところはなかった。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼らの主君であった伊達だて邦夷は、さかやきの伸びた額をおさえ、いささか唇をまげたあの顔で、遠い海の彼方かなたに視線を投げていた。思いが胸にあふれているときの様子であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「舅治右衛門にいささか助力を致そうと心得、出向きましたところ、一揆の有様を目のあたり見まして、事の恐しさに前後を忘れ、思わず三名を斬ったのでございます」
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つまり彼女たちには、若殿が若殿であることにいささかの疑念もないのである。もっとも大名などの奥の生活は、われわれが想像するほど上品清潔なものでないという学者もある。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の態度が異常といってもいいくらいだっただけに、それが恋でなくて、母や姉に対する愛情であったという告白は高雄をすなおに感動させ、いささかの疑念もなくうけいれていいと思った。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
われらの志す道にはいささかのゆるぎもない、生きてこの道を天下に顕彰するのはむつかしいが、われらが死ねばあとへ続く者は必らず出る、大やまとの国びとはあげてわれらのあとへ続くのだ
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「化物屋敷」などは通俗の俗でいささかも珍しくはなかったのである。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)