下手したて)” の例文
中納言様と下手したてにばっかり出て来たが、あいつらは、岩倉三位、岩倉三位と、大きそうに出やがって練込んで行くが、結局、するところは一つで
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まだ厄を越したばかり、若くて美しくて、気立てのいいお静は、気の毒なほど下手したてに出て、綺麗で年上で、何となく押の強いお楽を立ててやったのです。
上手うわてがどうしたの下手したてがどうしたの足癖がどうしたのと、何の事やらこの世の大事のごとく騒いで汗もかず矢鱈やたらにもみ合って、稼業かぎょうも忘れ、家へ帰ると
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今度は下手したてに出て光子さんの機嫌取りながら、「あの奥様よっぽど怒ってたはずやのんにどんなこというて丸めたのんか、後学のために聞かして欲しい」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これは商売品ですから、ただ差上げる訳には行きませんと下手したてに出ると、君の所は焼けなかったじゃないかと言う見幕で、とても安心して商売も出来ません
震災後記 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「ふん」と要平は唾を吐いた、「城代のせがれだから下手したてに出てやったが、おまえさん本当におれとやる気なのか」
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
留吉 (あくまで下手したてに、話題を変へる)なにかね、なんか製材所とかの事で、今ゴタゴタしてゐる——?
地熱 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
そうかといって下手したてに出て御機嫌を取ったり、ヨタを飛ばして煙に巻いたりするような小細工もしない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だから、立つ腹もこっちが納めて、この通り下手したてからおわびを申しているんでごぜえます」
女の人は今まで社会的に大変下手したてに出るよう馴らされて来ていますから、お金は足りない。
美しく豊な生活へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ものやはらかいしかし皮肉な江戸つ子で、下手したてには殊に熱心に指してくれた。この人も飛香落から指して、平手に進んだ。この頃は、自分として、一番棋力きりよくの進んだときだと思ふ。
将棋 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そして父はこの息子に下手したてからお世辞を使ふ態度を取つてゐた。梅麿は父がお世辞を使ふ気持を見抜いて、とぼけて悠々とお世辞を使はれてゐた。だが決して調子に乗らなかつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ところがざるの域を脱しない悲しさ、置き先は多いけれど置かせ先が至って尠い。そこで下手したてを養成する必要を年来感じていた。折からこの正月千吉君は関君のところへ年始に行った。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そう下手したてに出られると教えざるを得んね。第一は新嫌疑者の追跡さ。舟木——」
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
く/\拙者と御一緒にお帰り遊ばされ候へと、泣沈なきしずむ娘を引立て行かむとするにぞ、一人の侍今はこれまでなりと覚悟致し候様子にて、と立上り、下手したてでをれば空々そらぞらしきその意見
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
首垂うなだれて居る男に向って斯う叫んだのでありました、——バラされない内に、へえ左様ですかと下手したてに出たらどうだい、女だからってお前さん方に舐められる様なあたしじゃないんだよ、ねえ
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
「きつとロシアだよ。」と一口に神戸をいひ消されてしまつた三ちやんは、折角の生まれ故郷に自信がもてなくなつたかして、それ以来仲間とあそぶのに、いつも下手したてに出るやうになつた。
しかし玄也はなほ下手したてから、殆んど泪つぽいやうな卑屈な声をして
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「ばかに今夜は下手したてに出るぜ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うるせえな」と男は乱暴にさえぎり、ふところ手を出したとみると、すばやく得石の腕を掴んだ、「下手したてに出ていればいい気になりゃあがって、野郎、来るのか来ねえのか」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なされたな、ことに上手うわてのものとのみ手合せをしておいでと見えて、下手したてより上手へ強いお手筋じゃ。いや、頼もしうござる。ハテこの一手、これがわからぬ、いやこれはどうも
平次は下手したてに出ました、金で慢心して居る人間には、うする外にはありません。
かうした態度に出るまでの径路であつた——一旦下手したてから説いて見て、それで行かなければ腕力に訴へる——かと思ふと、勝平に対して、懐いてゐた一時の好感は、煙のやうになくなつて
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それをするにはまた、あまりに心臓は重り、首筋の骨は硬ばってしまっているのだ。路上のあきないの常として、気軽るに、癪に触ることも受け流し、如才なく客の多情へ下手したてにつけ入って行く。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
平次はひどく下手したてに、掛引無しに持ちかけました。