一游亭いちいうてい)” の例文
時雨しぐれの庭をふさいだ障子。時雨の寒さを避ける火鉢。わたしは紫檀したんの机の前に、一本八銭の葉巻をくはへながら、一游亭いちいうていの鶏のを眺めている。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大正十二年八月、僕は一游亭いちいうていと鎌倉へき、平野屋ひらのや別荘の客となつた。僕等の座敷の軒先のきさきはずつと藤棚ふぢだなになつてゐる。その又藤棚の葉のあひだにはちらほら紫の花が見えた。
一游亭いちいうていと鎌倉より帰る。久米くめ田中たなかすが成瀬なるせ武川むかはなど停車場へ見送りにきたる。一時ごろ新橋しんばし着。直ちに一游亭とタクシイをり、聖路加せいろか病院に入院中の遠藤古原草ゑんどうこげんさうを見舞ふ。
そこへ勝峯晉風かつみねしんぷう氏をも知るやうになり、七部集しちぶしふなどものぞきたれば、いよいよぬえの如しと言はざるべからず。今日こんにちは唯一游亭いちいうてい魚眠洞等ぎよみんどうらひまに俳諧を愛するのみ。俳壇のことなどはとんと知らず。
わが俳諧修業 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
東京に帰りしのち小沢碧童をざはへきどう氏の鉗鎚けんつゐを受くること一方ひとかたならず。その他一游亭いちいうてい折柴せつさい古原艸等こげんさうらにも恩を受け、おかげさまにて幾分かめいを加へたる心地なり、もつとも新傾向の句は二三句しか作らず。
わが俳諧修業 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)