鞘の蒔絵が蓮花、縁頭鍔共ふちかしらつばとも蓮葉れんえふの一本指であつた。榛軒は早晩致仕して、貴顕の交を断ち、此小刀を佩び、小若党一人を具して貧人の病を問はうと云つてゐたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)