彼は師匠の魂が虚夢の生死を超越して、常住涅槃じやうぢゆうねはんの宝土に還つたのを喜んででもゐるのであらうか。いや、これは彼自身にも、肯定の出来ない理由であつた。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)