いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔とうすいの味を知って、今では、安成三五兵衛やすなりさんごべえの腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものとなっていた。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)