「……万里泊舟天草灘ばんりふねをはくすあまくさのなだ……」と唯口のさきだけ声を出して、大きく動かしている下腮したあごの骨が厭に角張って突き出ている。斯うして見れば年も三つ四つ老けて案外、そう標致きりょうも好くないなあ! と思った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)