生得しょうとく)” の例文
新一君のお母さんは日本人の顔を持った生粋きっすいのアメリカ人であった。祖父ブウリーと父新太郎の血を受けついだ生得しょうとくのスパイであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つてを求めて権門貴戚きせきに伺候するはおろか、先輩朋友の間をすらも奔走して頼んで廻るような小利口な真似は生得しょうとく出来得なかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
生得しょうとくの愚か者とみえる」武士が苦い顔をしたことは云うまでもない、「では其の方なぜ此の家へ来ておる、なぜ柳原でお貰いをしておらんのだ」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
陸は生得しょうとくおとなしい子で、泣かずいからず、饒舌じょうぜつすることもなかった。しかし言動が快活なので、剽軽者ひょうきんものとして家人にも他人にも喜ばれたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「持っていた——が、生得しょうとく馬が嫌いで、落馬も生れて始めてだから、大地に膝をついた時、思わず取り落とした」
絶食するに至って初めて方便をめぐらすべきである。「三国さんごく伝来の仏祖、一人いちにんも飢ゑにしこごにしたる人ありときかず。」世間衣糧の資は「生得しょうとく命分みょうぶん
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
御存知の通り文三は生得しょうとくの親おもい、母親の写真を視て、我が辛苦を艱難かんなんを忍びながら定めない浮世に存生ながらえていたる、自分一個ひとりため而已のみでない事を想出おもいいだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私が生得しょうとく酒を好んでも、郷里に居るとき少年の身として自由に飲まれるものでもなし、長崎では一年の間、禁酒を守り、大阪に出てから随分ずいぶん自由に飲むことは飲んだが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで育ったのが久兵衛で、彼に名人芸があるとすれば、これは生得しょうとくで主人から教えてもらったものではあるまい。それで魚肉を薄く切る陋習ろうしゅうが今に残っているものと思う。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
幸いにして東京に良家のあるありて、彼女のために適所を供さば、たんに心身の更生こうせい僥倖ぎょうこうしうるのみならず、その生得しょうとくの才能を発揮するの機縁に遇いうるやも計るべからず。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
生得しょうとくがかいの無い悲しさに、何と思っても凌ぎ切れぬ……とねをあげるほどだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
「先生も御承知のとおり、わっしは生得しょうとくいぬねこがすきでごぜえやして……」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かようなつむりを致しまして、あてこともない、化物沙汰ざたを申上げまするばかりか、譫言うわごとの薬にもなりませんというは、誠に早やもっての外でござりますが、自慢にも何にもなりません、生得しょうとく大の臆病で
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生得しょうとく、いっこう纒まりのつかぬ風来坊。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
(かれは、武者だが、生得しょうとくの歌人ぞ)
しかし生得しょうとく、人のもだえ苦しんだり、泣き叫んだりするのを見たがりはしない。物事がおだやかに運んで、そんなことを見ずに済めば、その方が勝手である。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はな、琴、鼓などという芸事をずいぶん熱心にならった、また生得しょうとくさかしい彼女はその一つ一つにすぐれた才分をあらわして、その道の師たちをおどろかしたものであるが
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いやもう生得しょうとく大嫌だいきらいきらいというより恐怖こわいのでな。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
周禎が矢島氏を冒した時、長男周碩は生得しょうとく不調法ぶちょうほうにして仕宦しかんに適せぬと称して廃嫡を請い、小田原おだわらに往って町医となった。そこで弘化二年生の次男周策が嗣子に定まった。当時十七歳である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
生得しょうとくと申しましょうかなかなかそれが身に付きません、芸ごとは心をやしない気をひろくすると聞きましたので、柄にも合わず勘も悪くて、半年してもまだ一つの唄があがらないありさまですが
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五郎作は奇行はあったが、生得しょうとく酒をたしまず、常に養性ようじょうに意を用いていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)