黒髯こくぜん)” の例文
隊長シュミット氏は一行中で最も偉大なる体躯たいくの持ち主であって、こういう黒髪黒髯こくぜんの人には珍しい碧眼へきがんに深海の色をたたえていた。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
胸まである黒髯こくぜんを春風になぶらせ、腰に偃月刀えんげつとう佩環はいかん戛々かつかつとひびかせながら、手には緋総ひぶさのついた鯨鞭げいべんを持った偉丈夫が、その鞭を上げつつ近づいてくるのであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アツシを着た四十左右の眼の鋭い黒髯こくぜん蓬々たる男が腰かけて居る。名はヱンデコ、翁の施療せりょうを受けに利別としべつから来た患者の一人だ。此馬鹿野郎、何故なぜもっと早く来ぬかと翁が叱る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひょいと、朱同の膝へ乗って、その長やかな黒髯こくぜんを、おもしろそうにもてあそびはじめた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イグナトフスキーとかいうポーランド人らしい黒髪黒髯こくぜんの若い学者が、いつか何かのディスクシオンでひどく興奮して今にも相手につかみかかるかと思われてはらはらしたことがあった。
ベルリン大学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)