)” の例文
失敗しまッた」と口へ出して後悔しておくせに赤面。「今にお袋が帰ッて来る。『慈母さんこれこれの次第……』失敗しまッた、失策しくじッた」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女中も物珍らしく遊びたいから、手廻しよく、留守は板戸の開閉あけたて一つで往来ゆききの出来る、家主の店へ頼んで、一足おくせにでも
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小父さんの周囲まわりにある人達でむかしを守ろうとしたものは大抵凋落ちょうらくしてしまった。さもなければおくせに実業に志したような人達ばかりだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おくせは、武士さむらいの第一にむところである。左様な者は頼朝と事をするには足らぬ。目通りはならんっ、く帰れと云え!
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九月の末におくれせの暑中休暇を得て、伊豆の修善寺温泉に浴し、養気館の新井方にとどまる。所作為しょざいのないままに、毎日こんなことを書く。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時もし廉州れんしゅう先生が、おくせにでも来なかったなら、我々はさらに気まずい思いをさせられたに違いありません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おくれせながら新年おめでとう存じます、そちら皆々様おそろいよきお正月をお迎えなされし由およろこび申します。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
警視庁への打電、近県への非常線、遅れせ乍ら谷村署ではあらゆる方法を講じたが赤井の消息は知れなかった。
そのときおくれせに女中が馳せつけて「失礼しました」と挨拶してお涌を土蔵の中に導き、なにかと斡旋あっせんして退く——というような親しさになっている。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さらば行こう。おくせに北のかたへ行こう」とこまぬいたる手を振りほどいて、六尺二寸のからだをゆらりと起す。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
早く言った方がおそく言った艇より先にその場所へ届いたわけだからである。遅れせに農科は水門で特別な力漕を十本した。それでまた艇は並んでしまった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
そうして最近に及んで遅れせに暴利取締令を出したり、全国にわたって十こく以上の貯蔵米を申告させたり、御用商人に托して外米の輸入を計ったりしたような事が
食糧騒動について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
安心しきっていた一行は、急に壁につきあたりでもしたかのように、立ちどまりました。私もおくせに駈けつけてみましたが、鳴呼ああこれは一体どうしたというのでしょう。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その外にもう一人、サアベルを掴んだ警官らしい姿も、おくせにプラットホームから駈け降りて来るようであるが、しかしまだ四五町の距離があるから、私の顔を見知られる心配はない。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
更に或るときは君の行くてに待ちうけてゐる。また或るときはおくれせに後方から執拗しつえうに君を追ひかけても来る。だからそれらを常に予知することは運命を克服し打開し乗り越えることである。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
豊太閤朝鮮征伐の時、仙台の伊達政宗もおくせながら出征した。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ブラリと帰って来ると、おくせに追い付いたガラッ八。
遅れせに駈けつけた刑事は息せき切って斯う言った。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そのときおくれせに女中がせつけて「失礼しました」と挨拶あいさつしてお涌を土蔵の中に導き、なにかと斡旋あっせんして退く——といふやうな親しさになつてゐる。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それから五六日過ぎて、おくれせながら先日の見送りの礼と、転任の挨拶あいさつとを兼ねた活版刷りの住所変更通知が届いたが、雪子からはそれきり何の便りもなかった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お町さん、念仏を唱えるばかり吃驚びっくりした、かわやの戸の白い手も、先へ入っていた女が、人影に急いでを閉めただけの事で、何でもないのだ。」と、おくれせながら
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのおくせの年始状や、色々な手紙の中に一枚、Eから来た端書が入つてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
と若い女房、おくれせの挨拶をゆっくりして
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)