飛沫しぶ)” の例文
「まだある、下手人の着物なら、血が飛沫しぶいているはずだ、あれだけひどく殴ったんだもの、——ところがあれは血をいたんだぜ」
掠奪結婚も、折々あるし、恋愛争奪戦争に、家人奴僕を武装させ、やじりを射つくし、ほこに血を飛沫しぶかす場合も稀ではない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉之丞はあおのけに寝て、掌で受けをこしらえ、鼻のわきを流れるのも、顎から飛沫しぶくのもいっしょくたに飲みこんだ。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「城の衆は皆ここに居列んで、一度に腹を切ったので、天井や襖にもなまなましい血が飛沫しぶいていたとかいう話じゃ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨戸一重うらの崖で、熊笹に雨の飛沫しぶく音がした。量の殖えた温泉がごくごくむせんで筧を走る音。雨の中に、湯の香がいつもより強くただよった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
また血はそこに働く人々の白いシャツにも飛沫しぶきかかる……、豚はそこにころりっと倒れてしかばねとなる。それを両腕鮮血にまみれながら、鋸でごそごそひき切る。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一誦、赤や緑のイルミネーシヨン絢い文覚上人の活人形や、その背後を飛沫しぶいて落ちる電気仕掛の大滝の音が、きのふのごとく宛らに私の耳へ蘇つて来ないわけには行かない。
浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
……数十名の美人は悲鳴を揚げて逃げ惑いつつ片端から狂馬の蹄鉄にかかって行く……肉が裂ける……骨が砕ける……血が飛沫しぶく……咆哮……怒号……絶叫……苦悶……叫喚……大叫喚……。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だが、それなら、塀に血が飛沫しぶく筈は無い。——黒板塀がひどい血だぜ。ところで昨夜、誰と誰が家に居たかこうじゃないか」
びさしから雨だれの烈しく落ち飛沫しぶいている下に、藤吉郎はうずくまって訴えた。感動しやすい若い女性は、それだけでもう心がうごいたようだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「子供の惡戯にしちや念が入り過ぎますね、——それにもう一つ、北側の唐紙に、少し血が飛沫しぶいてるのはどうしたわけでせう」
相手は韋駄天いだてん鵲橋かささぎばしを一足とびに、その黒い影は、どうとうの水の飛沫しぶく、流れの彼岸ひがんに躍っている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓の下に置いた乾物の俵の端つこに、ほんの二三點、飛沫しぶいたやうに黒くなつて居るのは、馴れた者の眼から見れば、紛れもなく血の跡です。
窓の下に置いた乾物の俵の端っこに、ほんの二三点、飛沫しぶいたように黒くなっているのは、馴れた者の眼から見れば、紛れもなく血の跡です。
続いて、その晩着ていた、お吉と弥助の着物を出させましたが、どっちにも血の飛沫しぶいた跡もなく、洗った跡もないのです。
浴衣は秋草を染め出した中形で、なか/\にいきなものですが、袖を半分から下、刄物で切り捨て、下の方には物凄いほど血が飛沫しぶいてをります。
「——それからこの柱を御覧下さい、かなりひどく血が付いておりますが、これは手や着物から付いたのではなくて、傷口から飛沫しぶいたのです」
「——それからこの柱を御覽下さい、かなりひどく血が附いて居りますが、これは手や着物から附いたのではなくて、傷口から飛沫しぶいたのです」
續いて、其晩着てゐた、お吉と彌助の着物を出させましたが、何方にも血の飛沫しぶいた跡もなく、洗つた跡もないのです。
眞の下手人ならあんなことはせずに、何處かへ取捨てる暇もあつた筈だ。血潮も飛沫しぶいた血ではなく、染付けた血だ。
なるほど目立つほどではありませんが、点々として左脇腹へかけて、飛沫しぶいた血の跡は隠しようもなかったのです。
成程目立つほどではありませんが、點々として左脇腹へかけて、飛沫しぶいた血の跡は隱しやうも無かつたのです。
「証拠は山ほどある。夜露にれた弁次郎の袷には、一と晩明かした柳原土手の葉が付いているばかりではない。たもと飛沫しぶいた返り血を洗い落した跡まである」
「證據は山ほどある。夜露に濡れた辨次郎の袷には、一と晩かした柳原土手の葉が附いて居るばかりではない。たもと飛沫しぶいた返り血を洗ひ落した跡まである」
ズルズルと引き抜いて、パッと拡げると、隅っこの方にほんのわずかばかりですが、飛沫しぶいた血潮ちしおの跡。
お前はさぞ仰天したことだらうが、主人が間もなく息が絶え、お前の右手には、ひどく血が飛沫しぶいて居る
血潮は前の疊や道具類には飛沫しぶかず、後ろの壁と、隣り長屋の羽目板に飛沫いてゐるのは、どういふ身體の位置で突かれたものか、平次にも一寸見當がつきません。
敷居に飛沫しぶいた血潮は、大方拭き取つたやうですが、まだ生々なま/\しく殘つて、何となくぞつとさせます。
敷居に飛沫しぶいた血潮は、大方拭き取ったようですが、まだ生々しく残って、何となくぞっとさせます。
「白地の浴衣ゆかたでも着ていなきゃ、少しぐらい血が飛沫しぶいたって、夜目に判るものか、馬鹿野郎」
梯子段の下でお杉の袷を見付け、逆に手を通して、胸へ飛沫しぶく血をけたのは憎いじゃないか
傷は谷口金五郎と全く同樣、喉笛から右の耳の下へかけてのなゝめ一文字で、頸動脈を切つた血潮は八方に飛び散り、側にある植木の葉まで飛沫しぶいて居るのは物凄いことでした。
階子段の下でお杉の袷を見附け、ぎやくに手を通して、胸へ飛沫しぶく血をけたのは憎いぢやないか
血は大幅帳に飛沫しぶいたことだらう。曲者はそのよごれたところを、半紙二枚だけ引き挘つた、が燒くすきがなかつた。捨てる場所もなかつたので、畑の柔かいところに埋めたのだ
「白地の浴衣ゆかたでも着て居なきや、少し位血が飛沫しぶいたつて、夜目に判るものか、馬鹿野郎」
「それにしても、障子越しに刺されたにしては、あまり血が飛沫しぶいちやゐないやうだが」
「へェ、何んにもありませんね、節穴ふしあなは一つも無いし——血は飛沫しぶいて居るが」
門の扉に飛沫しぶいた血潮で見ますと、門を閉めたまゝで外で斬つたものに相違御座いません。御當家から送り出したものなら、あれだけ門の近くで斬る爲には、扉を開けて居る筈で御座います
「匕首を胸に突つ立てる前でなきや書けないのが遺書だよ。その遺書は血に塗れては居るが、下から浸み透つた血だ。そればかりぢやない、遺書の下に血が飛沫しぶいて居たのはどういふわけだ」
唐紙に飛沫しぶいた血が斑々として、その無気味さというものはありません。
門の飛沫しぶいた血潮で見ますと、門を閉めたままで外で斬ったものに相違ございません。御当家から送り出したものなら、あれだけ門の近くで斬るためには、扉を開けているはずでございます
あの玄翁は両手で振りおろしたのじゃない。両手で使ったら、血飛沫で全身蘇芳すおうを浴びたようになるはずだ。——あれは二枚屏風びょうぶを小楯に、片手で打ちおろしたんだ。お前も屏風一面に飛沫しぶいた血を
飛沫しぶいた血が、赤黒くこびり附いて居るのも無氣味なことでした。
「それにしても、こんな高いところまで血が飛沫しぶく筈はないよ」
「此通り板塀に血は飛沫しぶいて居ますが、節穴はありませんね」
ひどく血が飛沫しぶいて、斑々はん/\たる凄まじさです。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)