頭文字かしらもじ)” の例文
覺えてゐますわ。でも、一度も何てお名前の頭文字かしらもじか伺はなかつたのです。ぢや、それでどうなんですの? きつと——
私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆をっても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字かしらもじなどはとても使う気にならない。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、さっそく、ハート形と、王女さまのお名前の頭文字かしらもじとを、ふちにとった新聞が、でたってわけさ。
だれの戯れから始まったともなく、もう幾つとなく細い線が引かれて、その一つ一つには頭文字かしらもじだけをローマ字であらわして置くような、そんないたずらもしてある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう頭文字かしらもじの姓名の囚人がいたという記録も伝説もなかったので、その名前は何というのだろうかといろいろ推測されたんですが、どうもわからなかったのです。
しかもその表には、KDと、あきらかにドルセット侯爵夫人の頭文字かしらもじがうってあるのさえ見えた。その刹那せつな、博士の顔が絶望に木枯こがらしの中の破れ堤灯ちょうちんのようにゆがんだ。……
彼は彼とすれちがいながら、彼等の腕と腕が頭文字かしらもじのようにからみあっているのを発見した。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あなたの頭文字かしらもじを彫らせましたの……こちら側には『昼と夜』と、あなたのご本の題をね。
字体もまた変えてあるようだし、行のくばりといい、頭文字かしらもじの数といい、すべて意想外だ。要するに、其許は、誰かを馬鹿にしているらしいが、察するところ、相手は其許自身に相違ない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
古藤は、葉子・早月の頭文字かしらもじY・Sと書いてくれと折り入って葉子の頼んだのを笑いながら退けて、葉子・木村の頭文字Y・Kと書く前に、S・Kとある字をナイフの先で丁寧に削ったのだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただかけた局が名古屋とあるのでようやく判断がついた。ステトと云うのは、鈴木禎次すずきていじ鈴木時子すずきときこ頭文字かしらもじを組み合わしたもので、さいいもととそのおっとの事であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあ! ちつとも。さう云へば私、あなたに時々拜借した御本に、Eつて頭文字かしらもじのあつたことを
果然かぜん頭文字かしらもじらしいL・Mの二字が、ケースの一隅いちぐうきざまれているのを発見した。L・Mとは誰であろう。なおもケースをひっくりかえしてみるうちに、遂に某大国の製品を示すぼりが眼についた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このエンドウマメには、家族の中のひとりが、花嫁と花婿の名前を歯でかみつけておきました。といっても、頭文字かしらもじだけですがね。こんなところは、ふつうの結婚式とは、まったくかわっていました。
たとえば、ギリシャ語の練習帳の表紙に「Cahiers d'exercices grecs appartenant à……」と、書くのだが、頭文字かしらもじは看板の字のような恰好かっこうが取れていた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そのかたわらに JOHAN DECKER と云う署名がある。デッカーとは何者だか分らない。階段をのぼって行くと戸の入口に T. C. というのがある。これも頭文字かしらもじだけで誰やら見当けんとうがつかぬ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)