雨滴うてき)” の例文
山城守は、ち上った。あけ放してある縁から雨滴うてきおどりこんで来て、畳を濡らし、長して山城守の膝をおそいそうにするので、かれはあわて出したのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかるに、幸運であつた天気が、忽ちにして雲霧となり、下界をば全く隠蔽いんぺいしてしまつた。飆々へうへうとして流れくる雲霧は小粒こつぶ雨滴うてきとなつて車窓の玻璃はりらすやうになつた。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぼっちゃんは、あか帽子ぼうしをかぶって、女中じょちゅうにおぶわれて、雪晴ゆきばれのした、日当ひあたりにて、雨滴うてきのぴかぴかひかり、ちるのをおもしろがって、きゃっきゃっとわらいながらていました。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大食の習慣しふかん今日にいたりても未だ全くきうふくせざるなり、食事おはればれいにより鹽原巡査の落語らくごあり、衆拍手して之をく、為めにらうなぐさめて横臥わうぐわすれば一天すみの如く、雨滴うてき点々てん/\木葉を乱打らんだし来る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
五月雨さみだれ雨滴うてきの中に、冷々ひえびえと、そうした感傷の思い出を心に聴き、また従兄弟の光春は、彼の目に触れない遠い小間こまで、炉の火加減をのぞき、釜師かまし与次郎が作るところの名釜めいふのあたたかなたぎりを聞き
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
える風に横ざまの雨滴うてき
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)