雨乞あまごい)” の例文
天平感宝元年うるう五月六日以来、ひでりとなって百姓が困っていたのが、六月一日にはじめて雨雲の気を見たので、家持は雨乞あまごいの歌を作った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
……さて時にうけたまはるが太夫たゆう貴女あなたは其だけの御身分、それだけの芸の力で、人が雨乞あまごいをせよ、と言はば、すぐに優伎わざおぎの舞台に出て、小町こまちしずかも勤めるのかな。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ことに林相りんそう零落れいらくが目に立つようになると、雨乞あまごい鉦太鼓かねたいこが一段と耳に響く土地柄でもあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
多摩川遠い此村里では、水害のうれいは無いかわり、旱魃かんばつの恐れがある。大抵は都合よく夕立ゆうだちが来てくれる。雨乞あまごいは六年間に唯一度あった。降って欲しい時に降れば、直ぐ「おしめり正月」である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
修行者などが呪文を唱えて雨乞あまごいをしているそばを大蟻がっているものとしては句法がそれらしくありませんし、また句法に従って大蟻が呪文を唱えて雲を呼ぶものとしては少し突飛すぎるので
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これから先は、雨乞あまごい鞍掛くらかけ鳳来ほうらいたけと、山また山ばかり。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……わしめいは、ただこの村のものばかりではない。一郡六ヶ村、八千の人の生命いのちじゃ、雨乞あまごい犠牲にえにしてな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう思ってみると雨乞あまごいの行事なども、日本ではあまりにも重要視せられている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
去年の夏はてりがつゞいたので、村居六年はじめて雨乞あまごいを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
米ならば五万石、八千人のために、雨乞あまごい犠牲にえになりましょう! 小児こどものうちから知ってもおろうが、絶体絶命のひでりの時には、村第一の美女を取って裸体はだかき……
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地方の人たちのきれぎれの記憶の中から、他にどういう名の遊女があるいていたかを、今の内に聴いておきたいと私は念じている。秋田地方の風習には、雨乞あまごいに婦女が裸参りをする例が二三ある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いいえ、あの御幣は、そんなおどかしぢやありませんの。不断ふだんは何にもないんださうですけれど、二三日前、誰だか雨乞あまごいだと言つて立てたんださうですの、此のひでりですから。」
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨乞あまごいの雨は、いづれ後刻ごこくの事にして、其のまゝ壇をくだつたらば無事だつたらう。ところが、遠雷えんらいの音でも聞かすか、暗転に成らなければ、舞台にれた女優だけに幕が切れない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
社務所には、既に、近頃このあたりの大地主になれらましたる代議士閣下をはじめ、お歴々衆、村民一同の事をお憂慮きづかいなされて、雨乞あまごいの模様を御見物にお揃いでござりますてな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のたりと蚯蚓みみず雨乞あまごいに出そうな汐筋しおすじの窪地を、列を造って船虫がはいまわる……その上を、羽虫の大群おおむれが、随所に固って濛々もうもうと、舞っているのが炎天に火薬の煙のように見えました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)