間隙すき)” の例文
「いふ事あらばくいへかし。この期に及びわれを欺き、間隙すきねらふて逃げんとするも、やはかそのに乗るべきぞ」ト、いへば聴水こうべを打ちふり
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
君! 軌道と軌道の接続点つなぎめにおおよそ二分ばかりの間隙すきがあるだろう、この間下壇したの待合室で、あの工夫のかしらに聞いたら一まいるにあれがおよそ五十ばかりあるとね
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
実に、油断も間隙すきもあったもんじゃ無い。どうだ、そのうちに一度兄貴の家へ集まるまいか。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その犠牲いけにえが、十分苦しむのを見すまして、最後に飛びかゝる猫のように瑠璃子父子おやこが、一日を不安な期待のうちに、苦しみ抜いて、やっと一時逃れの安心に入ろうとした間隙すき
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
泰軒は、ちらと一瞥いちべつをくれた……だけだったが、その間隙すきが期せずして源十郎に機会を与えて、泥を飛ばして踏みこんだ鈴川源十郎、流光雨中に尾をえがいて振りおろした——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
け、両君」と叫ぶ第一回の指揮者ランナウ君の声が沈黙を破つた。剣と剣とはなかば曇つた二月の空にしば/\相触れて鳴つた。間隙すきの無い見事な対戦に観る人の心は胸苦むなぐるしい迄緊張した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今度このたびはいうべき事もかねて用意して、じれッたそうに挿頭かんざしで髪をきながら、漸くのおもい間隙すきを見附け、「公債は今幾何いくらなの?」とくちばしさんでみれば、さて我ながら唐突千万! 無理では無いが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小林の筋の運び方は、少し困絡こんがらかり過ぎていた。お延は彼の論理ロジック間隙すきを突くだけに頭がれていなかった。といって無条件で受け入れていいか悪いかを見分けるほど整った脳力ももたなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今二匹が噬合ひはじめて、互ひに負けじと争ひたる、その間隙すきを見すまして、静かに忍び寄るよと見えしが、やにはに捨てたる雉子きぎすくわへて、脱兎の如く逃げ行くを、ややありて二匹は心付き。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
避ける間隙すきも無かった。彼女は以前の夫の方を振向いた。大塚さんはハッと思って、見たような見ないような振をしながら、そのまま急ぎ足に通り過ぎたが、総身電気にでも打たれたように感じた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たまにはみずから進む事もあって、ふと十七字を並べて見たりまたは起承転結きしょうてんけつの四句ぐらい組み合せないとも限らないけれどもいつもどこかに間隙すきがあるような心持がして、くまも残さず心をくるんで
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ればいぬる日鷲郎と、かの雉子きぎすを争ひける時、間隙すきを狙ひて雉子をば、盗み去りし猫なりければ。黄金丸はおおいに怒りて、一飛びにくってかかり、あわてて柱に攀昇よじのぼる黒猫の、尾をくわへて曳きおろし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)