鉄片てっぺん)” の例文
みんなは、に、武器ぶきっていました。それは、竹槍たけやりや、たまたま海岸かいがんげられた難破船なんぱせんいている、鉄片てっぺんつくられたつるぎのようなものでありました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まゆとそれから濃い眸子ひとみ、それが眼に浮ぶと、蒼白あおしろい額や頬は、磁石じしゃくに吸いつけられる鉄片てっぺんの速度で、すぐその周囲まわりに反映した。彼女の幻影は何遍も打ちくずされた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤さびの鉄片てっぺんや、まっ黒こげの灰土はいつちのみのぼうぼうとつづいた、がらんどうの焼けあとでは、四日よっか五日いつかのころまで、まだ火気のあるみちばたなぞに、黒こげの死体がごろごろしていました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「待て!」と、Kは起ち上った、出口の扉を堅く閉めて、内錠うちじょうをかけた。その鉄片てっぺんの刎ね返った響が、沈黙した室に響き渡った。絶えず倒れた意識ない人の口は動いていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)