醒覚せいかく)” の例文
けれども赤彦君は、このごろ眠りと醒覚せいかくとのさかひで時々錯覚することがあつた。ゆうべあたりも、『おれのひざに今誰か乗つてゐなかつたか』
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
当時においては、醒覚せいかくせる二人ににんの間に、かくの如く婚約が整ったということは、たえてなくしてわずかにあるものといって好かろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
再び醒覚せいかくして意識の光明を発すべしと考うることもでき、古代、人間の一生を夢に比し、死は夢のさむるときなりと申したる論も成り立ちましょう。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
はたしてそうならば、睡眠すいみん中のいわゆる夢魂むこんによっていわゆる醒覚せいかく中の真意が何処いずこにありしかをうかがうこともできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
現に今日にても士族の仲間なかまわたくしに集会すれば、その会の席順はもとの禄高または身分に従うというも、他に席順を定むべき目安めやすなければむを得ざることなれども、残夢ざんむいま醒覚せいかくせざる証拠なり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それはお常の変な素振が、亭主の内にいる時殊に甚しくて、留守になると、却って醒覚せいかくしたようになって働いていることが多いと云う事である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
これをもって、夢のときは、その人を呼びてたちまち醒覚せいかくせしむることを得るも、死のときは、なにほど大声にてその名を呼ぶも蘇生することなし。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかし器械的に働いてゐる船頭は、次第に醒覚せいかくして来て、どうにかして早くこの気味の悪い客を上陸させてしまはうと思つた。「旦那方だんながたどこへおあがりなさいます。」
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人心をして睡眠と醒覚せいかくとの中間における一種の状態に入らしめ、己の意思にて身体を支配することあたわずして、ほかの人の命令に応じて器械的に動くようになる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
つぎに、わが睡中において不意に声音を聞き、われわれを醒覚せいかくする人あらば、われわれはその声を聞き、感覚の器一部のみ醒覚したるときは、おそらくは砲声となさん。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
るべきものがない以上は、古い道徳にらなくてはならない、むかしかえるが即ち醒覚せいかくであると云っている人だから、容貌も道学先生らしく窮屈に出来ていて、それに幾分か世とさかっている
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一は脳の一小部分ひとり醒覚せいかくして、他の部分ことごとく休息するをもって、その一部分に集まるところの心力の分量、これを他の部分に比するに、その割合ことに多きにより
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
むちうたれ駆られてばかりゐる為めに、その何物かが醒覚せいかくするひまがないやうに感ぜられる。勉強する子供から、勉強する学校生徒、勉強する官吏、勉強する留学生といふのが、皆その役である。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
他日再び醒覚せいかくするときあることが分かり、はじめて数十年来かつ迷いかつ苦しみいたる胸中が、一時に郭然かくぜんとして開け、万里雲晴れて、月まさに中するがごとき心地するようになりました。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これまで自分の胸のうちに眠っていた或る物が醒覚せいかくしたような、これまで人にたよっていた自分が、思い掛けず独立したような気になって、お玉は不忍の池のほとりを、晴やかな顔をして歩いている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
僕はこの時忽ち醒覚せいかくしたような心持がした。たとえば今まで波の渦巻の中にいたものが、岸の上に飛び上がって、波の騒ぐのを眺めるようなものである。宴会の一座が純客観的に僕の目に映ずる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
例えば、昼間醒覚せいかくのときと夜間睡眠のときとは、精神に別あるにはあらざれども、一は覚識あり、他は不覚識の状態にいるがごとし。生死の精神の別、またこれに同じ。これを第二の異点となす。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
八は時計の音に刺戟せられて少し醒覚せいかくしたやうな心持がすると共に、例の泥坊としての義務を思ひ出した。何か取つて行かなくてはならないといふことを思ひ出した。そして又身の周囲まはりを見廻した。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)