きょう)” の例文
そのとし有名なる岸田俊子きしだとしこ女史(故中島信行氏夫人)漫遊しきたりて、三日間わがきょうに演説会を開きしに、聴衆雲の如く会場立錐りっすいの地だもあまさざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
予他邦に遊学すること年有りて、今文政十二己丑きちゅうの秋きょうに帰る時に、慨然として心にいたむ事有りて、一夜これを
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
庭に下りて花をうえる時、街の角に立って車を待つ時、さては唯窓のすだれかんとする時吹く風に軽くたもとを払われてもたちまち征人せいじんきょうを望むが如き感慨を催す事があった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実は私は、少年の客気、早くも天下の乱にきょうを離れて、江湖のあいだを流浪し、五百余人のあぶれ者を語らい、この地方を中心として山賊を業としている者です。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公使がこの命を伝うる時余にいいしは、御身おんみもし即時にきょうに帰らば、路用を給すべけれど、もしなおここにらんには、おおやけの助けをば仰ぐべからずとのことなりき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かつ抉せられてかつ罵り、血を含んでただち御袍ぎょほうく。すなわち命じてその皮をぎ、長安門ちょうあんもんつなぎ、骨肉を砕磔さいたくす。清帝の夢に入って剣を執って追いて御座をめぐる。帝めて、清の族をせききょうせきす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいは両親よりの依托を受けて途中ここに妾を待てるにはあらざると、一旦いったんは少なからずあやぶめるものから、もと妾のきょうを出づるは不束ふつつかながら日頃の志望をげんとてなり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)