遜色そんしょく)” の例文
日本人がともすれば自惚うぬぼれがちで世界のどこに比してもすべての点で遜色そんしょくないもののように考えるのは甚だ間違っていると私は思う。
伝統と進取 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
なぜ皇子の歌に比して遜色そんしょくがあるかというに、和え歌は受身の位置になり、相撲ならば、受けて立つということになるからであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
最後のスパアト五百米では、日本のクルウは、身体の動きこそ、ちぢまれ、オォルは少しも、他のクルウに比べて、遜色そんしょくなかったという。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
国芳が写生の手腕は葛飾北斎と並んで決して遜色そんしょくあるものにあらず。「東都名所」と題する山水画中の人物の姿勢、あるひは「生写百面相いきうつしひゃくめんそう
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すぐれた貴女きじょがたであるが歌はお上手じょうずでなかったのか、ほかのことに比べて遜色そんしょくがあるとこの御贈答などでは思われる。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし京水がのちく自ら樹立して、その文章事業が晋に比してごう遜色そんしょくのないのを見るに、この人の凡庸でなかったことは、推測するにかたくない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただ残念なことに前句の作者はまだ叙法の上に原作者に対してはるかに遜色そんしょくがあることを自認せねばなりません。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
殊に、加藤宅馬は、鑑刀の眼もきくし、愛刀家といわれていたが、これは、古刀の名だたる銘作と比較しても、遜色そんしょくのない物とまで——口を極めて賞めた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中の数例は第3図にあげる如くで、今子細にそれを見るに、前述欧米の研究者たちの観察に比しても決して遜色そんしょくのない点をもっていることがわかるのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
想像力も思考力も記憶力も強いが、我輩はこれらのお爺さんたちに較べてみてさまで遜色そんしょくがない。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
のみならず翁は蒐集家しゅうしゅうかです。しかし家蔵の墨妙のうちでも、黄金おうごん二十いつに換えたという、李営丘りえいきゅう山陰泛雪図さんいんはんせつずでさえ、秋山図の神趣に比べると、遜色そんしょくのあるのをまぬかれません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
菊五郎の墨染すみぞめ、染五郎の宗貞で、この浄瑠璃じょうるり一幕が素晴らしい人気を呼んだのであるが、団十郎の関兵衛に対して菊之助の小町は殆んど遜色そんしょくのない出来であるというので
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清洲越きよすごえ十九人衆の、大金持の御用達衆ごようたししゅうと、なんの遜色そんしょくもないのでありまして、その持田様のお娘御でございますことゆえ、召されておられるお召し物なども、豪勢なもので
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ともかくも、目標は浅草寺境内せんそうじけいだいの額面である。従来のものの中へ割込んで遜色そんしょくのないもの、それを頭に置いて、題目の選択にとりかかってみたが、それが案外骨が折れます。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、ここに疑問とすべきは、彼女の身体からだつきが非常にがっしりとしていることと、背丈の高いこと、そして骨盤のあたりが殆ど西洋人にくらべても遜色そんしょくないこと等である。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ようやく手のいた頃を見計みはからって、読み落した諸家の短篇物を読んで行くうちに、無名の人の筆に成ったもので、名声のある大家の作と比べて遜色そんしょくのないもの、あるいはある意味から云って
長塚節氏の小説「土」 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は官職や位階から云えば大きい隔たりがあるけれども、系図や家柄を論ずれば平中も遜色そんしょくはないのだし、趣味や教養も同等であるし、どちらも女好きな貴族の美男子なのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自惚うぬぼれは天性だから、書上げると、先ず自分と自分に満足して、これなら当代の老大家の作に比してもして遜色そんしょくは有るまい、友にせたら必ず驚くと思って、せたら、友は驚かなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
正直に言って、欧米の作者のでも、拙劣な作品は別として、少なくもビーストンとかランドンとかいう程度の人の作品に比べると、江戸川乱歩氏の前記の三編にはまだまだ非常な遜色そんしょくがある。
これをギリシア盛時の叙情詩に比するも決して遜色そんしょくはあるまいと思う。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わたくしは唯墨堤の処々に今なお残存している石碑の文字を見る時鵬斎ほうさい米庵べいあんらが書風の支那古今の名家に比して遜色そんしょくなきが如くなるに反して
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すばらしく権勢のある家のことであるから多数の高官たちも法会ほうえに参列したが、宰相中将はそうした高官たちに遜色そんしょくのない堂々とした風采ふうさいをしていて
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
城下をめぐる幾筋もの川は、自然の外濠そとぼりや内濠のかたちをなし、まず平城ひらじろとしては申し分のない地相、阿波二十五万石の中府としても、決して、他国に遜色そんしょくのない城廓。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
織田の宿将で、充分に群雄を抑えるの貫禄を持っていたし、正面に争わせれば、あえて秀吉といえども遜色そんしょくのある将軍ではなかったけれども、いかにせん、地の利を得なかった。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「この青磁の形は大変いい。色も美事だ。ほとんど羊羹に対して遜色そんしょくがない」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粂八ならば男優と同じ舞台に立って、おそらく遜色そんしょくはあるまいと言われた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼の遺した『雪華図説』一巻は、一八二〇年代にスコレスビーあるいはグレイシャーの如き世界的雪華研究者として歴史上に不朽の名を遺した人々の仕事と較べても余り遜色そんしょくがないように思われる。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ぎ上ぐる刃物ならねどうちし身の名倉のいしにかゝらぬぞなき。」わたくしは余り狂歌を喜ばぬから、解事者を以て自らおるわけではないが、これを蜀山しょくさんらの作に比するに、遜色そんしょくあるを見ない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それをここ数年間に、営々と攻め、孜々ししとして降し、約三分の一にまでたいらげて行ったのは、まさに山陽の秀吉の武勲と比べても、決して遜色そんしょくのない惟任光秀これとうみつひでのてがらといっていい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その玄蕃盛政は、まだ二十九という若さであるにかかわらず、柴田一族の上将として加賀の尾山城に住み、ここに在る諸大名とくらべても、何ら遜色そんしょくないほどな封地ほうちと待遇をうけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)